イヌ・ネコ用生肉に孕む危険性-サルモネラ属菌汚染の実態-

掲載日:2021.03.08

ネット通販サイトを見てみると、各種動物肉のミンチ状あるいはブロック状など多種多様なイヌやネコ用の生食用生肉が販売されています。動物では加熱調理されることが殆どないため、原材料である生肉そのものがペットフードとして提供されることになり、厳格な微生物管理が求められます。平成20(2008)年6月18日に公布された「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(ペットフード安全法)における規制対象となる「愛がん動物用飼料」にペット用生肉が含まれているものの、日本における微生物管理の実態は明らかでありません。アメリカではイヌ用生肉を与えたグレイハウンド繁殖施設のイヌ138頭中27頭が下痢などの症状を示し、51頭の糞便からサルモネラ属菌が検出され、10頭の子犬が死亡したことが報告されています1)。また、ペットフードに起因するヒトのサルモネラ症の集団発生も報告されています2,3)。このような背景の下、倉敷芸術科学大学の湯川尚一郎准教授と共同研究で、イヌ用生肉のサルモネラ属菌の汚染実態調査4)を実施しましたので、その概要をお知らせします。

検査材料は岡山県と大阪府の小売店で購入した国産42製品と輸入4製品の合計46製品でした。その結果、国産7製品(16%)からサルモネラ属菌が検出されましたが、輸入品からは検出されませんでした。生肉全体からサルモネラ属菌の検出率は15%(7/46)でした。分離されたサルモネラ属菌の性状を下の表にまとめました。陽性であった製品の原材料は馬(1製品)、鶏(3製品)、鶏と牛の混合(1製品)、カンガルー(豪州産を日本で加工,1製品)、鹿(1製品)でした。分離されたサルモネラ属菌の血清型はInfantisが3株、SchwarzengroudとTyphimuriumが各1株で型別不能が2株でした。この内、S.Typhimuriumは医療上重要とされるキノロン系抗菌薬やクロラムフェニコールに耐性を示す多剤耐性菌でした。S.Infantisの1株はカナマイシン、テトラサイクリン、トリメトプリムの3剤に耐性を示しました。

以上のことから、国内で市販されているイヌ用生肉の15%からサルモネラ属菌が分離され、すべてが国産の製品でした。外国産から分離されなかった理由は不明ですが、検体数が少ないことが影響した可能性があります。分離された生肉はサルモネラ属菌の汚染率の高い鶏肉を原材料としているものが多い傾向にありました。また、分離株の中には医療で問題となっている多剤耐性菌が含まれていることが分かりました。同じくYukawaらはペット用加熱トリーツ(おやつ)のサルモネラ属菌汚染調査から、国産で2%(5/255)、輸入で4.2%(2/48)の合計2.3%の製品からサルモネラ属菌を検出したと報告しています5)。加熱処理をしていない生肉のサルモネラ属菌汚染率は加熱トリーツに比べて高率であることが分かります。サルモネラ属菌に汚染された生肉を喫食したイヌにサルモネラ症を起こす他、イヌを世話する飼い主への健康被害も危惧されました。特にS.Typhimuriumは病原性の強いサルモネラ属菌であり、飼い主への感染が心配されます。

ヒト用の牛や豚の生肉については、腸管出血性大腸菌O157などの汚染により深刻な食中毒が発生し、死亡者も出たことから食品衛生法により生食が禁止されています。具体的には食品衛生法第11条第1項により罰則規定が伴う規格基準が制定されており、生食が厳しく禁じられています。鶏肉について規格基準はないものの、市販されているのは加熱調理用だけです。ただし、鶏肉の生食が食文化である鹿児島県などでは、独自に規格基準を設定しています。では、イヌやネコ用の生肉の法的な取り扱いはどうなっているでしょうか?ペットフード安全法の第7条で病原微生物により汚染された愛がん動物用飼料は、製造、輸入または販売を禁止できると規定されています。また、法第5条第1項の規定による愛がん動物用飼料の成分規格等に関する省令で定めている規格基準にも病原微生物により汚染された原材料を用いてはならないとされています。しかし、家畜用飼料では規定されている国による収去検査はペットフードに対して規定されておらず実施されておりません。さらに、原材料や製品のロットごとの全量検査や国への報告は義務付けられておらず、メーカーや輸入元の責任となっています。したがって、消費者はメーカーや輸入元がどのような試験を実施しているのか、またどのような試験結果なのかも知ることができません。また、試験を実施していないのかも分からない状況です。

一方、アメリカでは食料供給の過程で安全を保障することにより公衆衛生を向上する目的で2011年1月に連邦法である食品安全強化法(Food Safety Modernization; FSMA)が制定されました。この適応範囲は我々が食べる食品とともに、ペットフードも対象となっています。つまり、ペットフードも食品と同じような規制がかかることを意味しています。今回のようにペット用生肉からサルモネラ属菌が分離されても、日本ではすぐに対応できる規制がないのです。実際に先に紹介したアメリカの事例のようにペットフード(トリーツ)を介したイヌの死亡を含む健康被害が日本でも報告されています6)。また、サルモネラ属菌に汚染された生肉を冷蔵庫で保存した場合、人用の食品への交差汚染も想定され、公衆衛生上の問題も考えられます。以上のように日本でもペットフードに起因するヒトへのサルモネラ属菌の感染が起こりうる可能性があります。しかし、ペットフード安全法には公衆衛生的な視点での規定がなく、ヒトの食品を規制する食品衛生法の対象外とされており、ペット用生肉に対する早急な法整備が求められます。

 

 

1)Morley PS, et al., Evaluation of the association between feeding raw meat and Salmonella enterica infection at a Greyhound breeding facility. J Am Vet Med Assoc. 2006; 228:1524-1532.

2)Imanishi M, et al., Outbreak of Salmonella enterica serotype Infantis infection in humans linked to dry dog food in the United States and Canada, 2012. J Am Vet Med Assoc. 2014; 244:545-553.

3)Cavallo SJ, et al., Human outbreak of Salmonella Typhimurium associated with exposure to locally made chicken jerky pet treats, New Hampshire, 2013. Foodborne Pathog Dis. 2015;12:441-446.

4)湯川尚一郎:日本におけるイヌ用フードおよびトリーツのサルモネラ属菌汚染状況調査 大阪府立大学博士(獣医学)学位論文(論獣第259号) 2020年.

http://doi.org/10.24729/00016938

5)Yukawa S. et al., Characterisation of antibiotic resistance of Salmonella isolated from dog treats in Japan, Epidemiology and Infection 2019; 147:1-6.

6)生活クラブ:ペットフード「犬・猫用ササミ姿干し 無塩」ペットへの健康被害に関する調査結果とお詫び 2019年8月19日

https://seikatsuclub.coop/news/detail.html?NTC=1000000274