誕生日が外科医の術後死亡率に与える影響 -死亡率が他の日に行った手術より高い!-

掲載日:2021.02.22

外科手術が必要な疾病に罹り、手術を受けることになった場合、多くの患者は手術日を選ぶことはできません。患者は常に執刀者である医師に最高のパフォーマンスで手術を受けたいと思いますし、受けていると信じています。実際には手術室での医療機器のトラブルや手術とは無関係の会話など、執刀医の注意を逸らすような状況が多く存在すると考えられます。しかし、これまで手術中に注意散漫となる状況が、患者の死亡率に与える影響について調べられていませんでした。今般、アメリカでの大規模な医療データを用いて、誕生日に執刀医が注意散漫になることや、手術を早く終えようとすることが原因で、執刀医のパフォーマンスが変わるのではないかとの仮説をもとに、執刀医の誕生日と患者の死亡率の関係を調べた論文が公表されました1)。掲載された医学雑誌は、世界で最も権威ある医学雑誌であることを考えると、研究内容の重要性を推し測ることができます。研究はアメリカでの医療での話であるものの、獣医療としても非常に興味ある内容であることから、ここに研究内容を紹介したいと思います。

用いた医療データは、アメリカの65歳以上の高齢者で17の外科手術のいずれかを受けた約98万人を対象としたものです。これらのデータから、手術を行った外科医の誕生日と患者の30日死亡率の関係を調べました。この関係を調べるときには、同じ外科医が治療した患者について、その手術日が外科医の誕生日であったか、誕生日以外であったかを比較しています。ここで患者の重症度が誕生日とそれ以外で異なっていれば、死亡率が異なっても誕生日との関連は明らかではありません。そこで本研究では患者の年齢、性別、人種、併存疾患、予測死亡率などを、誕生日とそれ以外の日に手術を受けた患者を比較したところ、差がないことを事前に確認しています。この条件のもと、2011年から2014年に47,489人の外科医によって行われた980,876件の緊急手術を分析して患者の死亡率を比較したところ、執刀医の誕生日に手術を受けた患者の死亡率は、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率より1.3%増加していました(図)。数字的に少ないように見られますが、1000人当たりの手術で13人がたまたま執刀医の誕生日だったために亡くなったとしたら、それは由々しき問題だと思われます。これは外科医のパフォーマンスが仕事と関係のないことに影響される可能性を示唆しています。したがって、今回は誕生日でしたがそれ以外でも注意散漫となるような特別な日に外科医のパフォーマンスが低下している恐れがあります。

今回の研究はアメリカの医療での話であり、誕生日の考え方や過ごし方が日本と異なるものと考え、一概に日本での状況を反映するものでないと考えます。また、外科医は卓越したプロフェッショナル精神の持ち主であり、患者としては執刀医がどんな状況であっても常に最高のパフォーマンスを発揮していると信じたい気持ちです。誕生日以外での外科医の注意を削ぐような状況も含めて、日本での調査結果が待たれます。なお、獣医療においても同じような状況が想定され、特に医療と近い伴侶動物医療における状況が気になる研究内容でした。

 

1)Kato H, Jena B A, Tsugawa Y: Patient mortality after on the surgeon’s birthday: observational study, British Medical Journal 2020;371:m4381 doi:10:1136/bmj.m4381