「赤チン」の歴史が終わります!

掲載日:2021.02.15

「赤チン」といえば、子供のころに傷口に塗った経験をお持ちの方がほとんどだと思われます。同じような局所殺菌剤の「ヨーチン」はアルコールを含有するため、使用直後に傷口に激痛を感じるのに対し、痛みがないことなどから子供を中心にフアンが多かったものです。この「赤チン」を製造していたただ一社の会社が、2020年12月で製造を中止にすることがニュースになっています。そこで今回は「赤チン」をめぐる話題を紹介したいと思います。

「赤チン」の正式名称は、マーキュロクロム液でメルブロミン(有機水銀二ナトリウム塩化物)の2%水溶液になります。暗赤褐色の液体であり、茶色の「ヨードチンキ」に対して赤色であったことから、赤いヨードチンキを略して「赤チン」と呼ばれ、最盛期には約100社が製造していたようです。アルコールを含有していないことから、傷口に塗布しても痛みを感じなかったわけです。メルブロミンの殺菌作用は1918年に発見され、傷にしみない殺菌剤として全世界の家庭の常備薬として普及しました。日本では製造工程で水銀化合物を含む廃液が生じるという理由から1973年ころに原料の製造が中止されましたが、製品の要望が多いことから海外で製造した原料を用いて販売が継続されていました。国内での原料の製造中止の切掛けとなったのは、有機水銀化合物を含む工場排水により発生した水俣病でした。もともと1939年から局方医薬品であったのですが、2019年5月31日をもって日本薬局方から削除されました。また、2015年に制定された「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」1)により、2020年12月31日をもって国内での製品の製造が禁止されることなったものです(下表)。水俣病という未曽有の公害病を経験した日本としては、致し方ないことだと思われます。

この「赤チン」ですが、獣医学領域でも使われていました。私が獣医学科の学生の時に教科書として使用した、黒澤亮助・酒井保監修の「家畜外科診療」(養賢堂)の創傷の薬物的療法の水溶性創傷薬にマーキュロクロムの記載があります。記載内容としては、「刺激性がなく、殺菌性に富み、応用範囲が広いが、着色性と水銀化合物であるため使用に注意を要する。」とあります。また、瀬崎貴三著の「獣医臨床薬物学」(文永堂)の皮膚および粘膜の防腐消毒薬の欄に記載があり、「強力な殺菌作用があり、2%液は5%ヨードチンキの5倍の消毒作用を有するといわれる。」と書かれています。さらに驚くことに、「眼科には0.5~2%を用いる。人においては敗血症、丹毒、肺炎に1%液を5~10mlを静注することがある。」と記載されています。今では考えられませんが、外用だけでなく注射剤としても使用された歴史があるようです。

水銀による環境汚染を防止するためには、やむを得ない措置と思いますが、安価で有効な昭和の外用殺菌剤が姿を消すことに一抹の寂しさを感じます。約100年にわたり医学や獣医学に対して計り知れない貢献をしてきた「赤チン」に心からお礼を言いたい気持ちです。でも1世紀にわたって使用されていた医薬品があったとは本当に驚く話ですね。このように息の長い医薬品は今後なかなか生まれないようにも思います。

 

1)水銀による環境の汚染の防止に関する法律-水銀対策のさらなる推進に向けて-

https://www.env.go.jp/chemi/tmms/suigin_leaflet_law.pdf

 

 

 

https://www.env.go.jp/chemi/tmms/suigin_leaflet_law.pdf