ワクチンの種類と特徴 -COVID-19ワクチンを理解するために-

掲載日:2021.02.01

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延により、個人的な行動変容に頼る予防策では限界が見えてきました。そこで、COVID-19のワクチン開発が世界的に急速に進められており、連日、その進捗状況がニュースで報道されています。すでに承認されたCOVID-19ワクチンの人に対する接種がいくつかの国で開始されており、その有効性と安全性に世界から注目が集まっています。そのような状況の中、感染状況が逼迫していることもあり、短期間で製造が可能な、従来とは全く異なる新規性の高いタイプのワクチン開発が盛んに行われています。そこで今回はCOVID-19ワクチンの理解を深めていただくために、ワクチンの種類とその特徴について解説したいと思います。

古くから感染症を防ぐにはワクチンによる予防が最も有効で効果的な手段とされています。ご承知のように人類が最初に手にしたワクチンは1798年のJennerの種痘になります。イギリス人であるJennerは、牛痘に感染した乳搾りの農夫が天然痘に感染しないことを観察し、そのことを証明するために、乳搾りの女性の腫物を8歳の少年の腕に接種しました。その後、少年は軽い悪寒・頭痛と食欲の喪失を訴えましたが、接種部位にかさぶたを残して回復しました。そして、10か月後に天然痘患者の膿胞材料を少年に接種し、発病しないことを実証したのでした。今考えれば明らかな人体実験であり、人道上、実施することは不可能な実験でした。その後、開発された種痘(天然痘ワクチン)のお陰で、1977年の患者を最後に地球上から天然痘がなくなり、1980年にWHOから根絶宣言が出されたのです。天然痘は人類が駆逐した唯一の感染症になります。

ワクチンには大きく分けて三つのタイプがあります(図1)。一つは生きたウイルスを弱毒化させた弱毒生ワクチンです。通常は感染症の原因となる病原体の継代培養を繰り返している中で、偶然に出現する病原性に関する遺伝子の変異株を選択してくるものです。いつ変異株が出現するかは予想できず、弱毒株の作出に長期間かかることや、病原体の中には変異の誘導が困難なものも多いことが欠点とされています。また、弱毒であっても生きた病原体ですので、体内で増殖して時に副作用を起こすことも考えられます。近年、これらの欠点を回避する新たな手法で作出したワクチンが実用化されています。まず一つは遺伝子欠損ワクチンです。これは病原体の病原性に関与する遺伝子を分子生物学的手法で欠損させて弱毒株を作出するものです。さらに、ベクターワクチンといって、すでに弱毒株として確立した病原体をベクター(運び屋)として利用し、新たに作成する感染症の原因となる病原体の有効性に関与する遺伝子をベクターに導入することで作出するものです。

二つ目は不活化ワクチンです。新たな感染症が発生した場合、弱毒生ワクチンの開発には時間がかかりすぎるため直ぐに対応できないので、不活化ワクチンの開発が積極的に進められてきました。感染症から分離した強毒の病原体をホルマリンなどにより不活化したものをワクチンとして使用するものです。細菌であれば全菌体ワクチンであり、ウイルスであれば全粒子ワクチンと呼ばれます不活化した病原体は体内で増殖できないので、一般には生ワクチンより安全性が高いといわれています。しかし、病原体の種類によっては構成する成分(細菌内毒素など)による発熱などの副作用が認められることがあります。また、一般的に有効性については生ワクチンより劣りますので、通常は免疫補助剤(アジュバント)を添加しています。また、ワクチンの免疫には抗体の産生を誘導する液性免疫と、ウイルス感染細胞に対して抗体などを介さずに免疫細胞が直接攻撃する細胞性免疫があります。不活化ワクチンは液性免疫を誘導できるのですが、一般に細胞性免疫を誘導することが困難であるといわれています。さらに不活化ワクチンの進化系であるサブユニット(成分)ワクチンがあります。有効成分を抽出して作成したもので、病原体から有効成分を精製してワクチンとしたものと、遺伝子組換え技術を用いて有効成分を大腸菌などに発現させたものを利用するものがあります。限られた有効成分であるため、全菌体(全粒子)ワクチンより免疫の誘導は弱いとされています。したがって、アジュバントの添加が必須となります。

三つ目としてトキソイドがあります。ある種の細菌感染症では細菌の産生する毒素が病原性の発現に重要であり、精製した毒素にホルマリンなどを加えることにより毒性をなくしたものをトキソイドといいます。代表的なトキソイドには破傷風トキソイドがあります。トキソイドも確実に免疫を与えるためにアジュバントを添加しており、不活化ワクチンの変型ともいえます。図2に生ワクチンと不活化ワクチンの主な性状について比較してみましたので参考にして下さい。

これまで生ワクチンと不活化ワクチン、それにトキソイドの話をしてきました。今回のCOVID-19の世界的な蔓延により、確実な治療薬が開発中であるものが多く、予防対策の必要性が強調されてきました。そこで従来型のワクチンではない新規の核酸ワクチンの開発が積極的に行われています。核酸ワクチンはこれまで海外で獣医学領域において承認され使用されていますが、人に対しては全く使用経験がないものです。これまで研究段階であったものが、COVID-19の蔓延が後押しとなり、三段跳びのように一挙に発展してきたように思います。核酸ワクチンを理解するために、まずは有効成分となるタンパク質の生成過程を簡単に説明します。まず、タンパク質の設計図となる遺伝子DNAがあります。このDNAの遺伝情報はmRNA(メッセンジャーRNA)に細胞の核内で写し取られ(転写といいます)、タンパク質の合成する場所であるリボゾームに伝えます。tRNA(トランスファーRNA)はタンパク質を構成するアミノ酸をリボソームに運びます。mRNAが転写した遺伝情報をもとにアミノ酸を並べてタンパク質が作られるのです(翻訳といいます)。20種類のアミノ酸がどのように、いくつ並んでいるかによってタンパク質の種類が決まります。

核酸ワクチンにはRNAワクチンDNAワクチンがあります。核酸ワクチンはウイルスや細菌そのものやタンパク質を使うのではなく、タンパク質の設計図となる核酸を体内に入れて、有効成分となるタンパク質を作らせて、免疫反応を誘導するものになります。有効成分となるタンパク質の設計図が分かっていれば、DNAやRNAは人工的に自由な設計ができ、大量生産が従来のワクチンに比べて容易といわれています。しかし、使用経験が乏しく有効性や安全性が未知数である部分も多いのも事実です。DNAワクチンは有効成分の情報を環状のDNAであるプラスミドと呼ばれるものに導入した有効成分のDNAをワクチンとして利用するものです。基本的にそのまま投与するためアジュバントの役割もします。それとともに細胞の核内でmRNAに転写され、細胞質内で有効成分であるタンパク質を作ることで、液性免疫も細胞性免疫も誘導されると考えられています。欠点としては免疫を誘導する能力が弱いとされています。一方、RNAワクチンですが、先に説明したmRNAをワクチンとして利用しようとするものです。DNAワクチンに比べて、転写のステップを省略できる利点があります。しかし、分解されやすいため脂質ナノ粒子(LNP)などに封入して投与します。これも液性免疫だけでなく細胞性免疫も誘導できます。また、保存には冷凍設備が必要とされます。

以上、ワクチンの種類と特徴を見てきましたが、そのことを踏まえて現在、国内で開発中のCOVID-19ワクチンの概要を見てみましょう(下表)。まず①塩野義製薬が開発中のものは、組換えタンパクを利用したもので、サブユニットワクチンになります。②第一三共はウイルスタンパクのmRNA利用するものでRNAワクチンです。③アンジェスはウイルスタンパクのDNAを利用するものでDNAワクチンです。④KMバイオロジクスはウイルスを不活化した全粒子ワクチンになります。⑤IDファーマはウイルスの遺伝情報をベクターとしたセンダイウイルスに導入したベクターワクチンになります。以上にように、先に説明したさまざまなタイプのCOVID-19に対するワクチン開発が進められていることが分かります。現在、臨床試験が開始する段階であり、次年度には有効性や安全性に関する様々なデータが出てくると思われます。できるだけ早期に承認されて、COVID-19の予防対策の決め手となって欲しいと願うばかりです。なお、全てのCOVID-19ワクチンの共通の安全性に関する懸念として、抗体依存性感染増強(ADE)という現象が起こるリスクが指摘されています。これはワクチンを接種された後にウイルスに自然感染した場合、ワクチン接種で誘導された抗体の一部がウイルスを積極的に細胞に取り込むようになり、感染を促進してしまうものです。今回開発されているワクチンでADEが起こるかどうかは未知数であることを覚えておいて欲しいと思います。

 

表.コロナワクチン開発の進捗状況(国内開発)<主なもの>

https://www.mhlw.go.jp/content/000702790.pdf