動物病院におけるSFTSウイルスのネコからヒトへの感染事例

掲載日:2021.01.12

最近、特に話題となっているイヌやネコなどの伴侶動物からヒトへ感染する人獣共通感染症に、「重症熱性血小板減少症(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome; SFTS)」があります。SFTSに罹患したヒトが多数死亡しており、診療に携わる獣医療関係者のみならず伴侶動物を飼育する方にとっても、知っておいていただきたい重要な感染症だと思われます。そこで今回は宮崎県の動物病院において、ネコから獣医師と動物看護師に院内感染が起こった事例についての詳細な報告がなされましたのでご紹介したいと思います。

まず、日本におけるイヌやネコのSFTSについて紹介します1)。日本医療研究開発機構(AMED)研究事業の調査により、これまで猫120頭、犬7頭の発症が確認されています。致命率はネコで60~70%、イヌで29%と非常に高くなっています。2017年4月に和歌山県でSFTS発症ネコが発見され、これが世界で最初のSFTS発症動物の確認例となりました。ネコの症状はヒトとほぼ同じで、元気・食欲消失(100%)、黄疸(95%)、発熱(78%)、嘔吐(61%)が認められ、 下痢は7%にのみ認められました。ネコでは黄疸が多いこと、下痢が少ないことがヒトと異なる臨床症状と考えられています。血液学的検査ではCK/CPK上昇(100%)、血小板減少(98%)、総ビリルビン(T-Bil)上昇(95%)、 肝酵素AST/GOT上昇(91%)、白血球減少(81%)などが多くの発症ネコで観察されました。一方、イヌですが2013年に山口県、熊本県、宮崎県の飼育イヌからSFTSウイルス(SFTSV)に対する抗体が検出されました。山口県の飼育イヌでは136頭中5頭(4%)に抗体が、2頭(1.5%)からSFTSV遺伝子が検出されました。過去も含めてすべてのイヌでSFTS様症状は認められなかったため、 SFTSVは多くのイヌで不顕性感染すると考えられていました。しかし、 2017年6月に徳島県にて世界で初めてSFTS発症イヌが発見されました。症状はヒトと同様で、元気・食欲低下、発熱、白血球減少、血小板減少、ALT/GPT上昇、消化器症状、黄疸、総ビリルビン上昇が観察されました。ネコではSFTSの発症により小動物病院に来院すると思われますが、イヌでは発症による来院は少ないと考えられ、ワクチン接種などで来院する場合に注意が必要です。

イヌやネコからSFTSVのヒトへの最初の感染事例は、2017年に西日本の女性が衰弱した野良ネコに咬まれた後にSFTSを発症し死亡したことです。SFTSにネコが感染していたか不明ですが、血小板の減少などの症状があり、女性がダニに咬まれておらずネコから感染した可能性が高いとされています。また、同じ2017年に下痢などが続いて体調を崩していたイヌを看病していた飼い主がSFTSを発症し、イヌもSFTSと診断されました。幸いにもその後ヒトもイヌも回復しました。イヌの看病でウイルスに汚染された唾液などを介して感染したものと考えられました。病気のイヌやネコを取り扱う臨床獣医師は、飼い主以上にSFTSに感染する可能性が高いと思われます。事実、宮崎県において小動物臨床を行う動物病院に勤務する獣医師と動物看護師がネコから直接感染した事例2)が明らかにされましたので詳しい状況を紹介します。

2018年8月15日に体調が悪いネコが入院しました(図と表を参照)。1歳のメス猫で黄疸、食欲不振、嘔吐を示し、体温は40.4℃でした。血液検査では白血球と血小板が減少し、総ビルルビン値が上昇しており、血清材料からSFTSV遺伝子がRT-PCR法で検出され、SFTSVの特異抗体も検出されています。しかし、入院後3日目に死亡しました。入院期間中に対応したのは、グローブと手術用マスクを装着した獣医師と動物看護師でした(ゴーグルはしませんでした)。ネコが死亡して10日後に、獣医師は高熱、疲労感、筋肉痛、眼痛と白血球と血小板の減少により入院しました。入院2日目と3日目の血清検体からSFTSV遺伝子が検出されました。また、血清検体からウイルス分離を行ったところ日本で多く検出される遺伝子型であるJ1型が分離されました。入院後10日目に症状は無くなり退院しました。退院して5日後に血清検体からSFTSVの特異抗体が検出されました。

また、獣医師がネコを治療した時に補助した動物看護師も、12日後の8月28日に発熱と不快感を訴え、県内医療機関を受診しました。この時、臨床所見からSFTSの可能性は低いと判断され、通院治療にて間もなく回復しました。しかし、獣医師の件を踏まえ、血清検体のSFTSV遺伝子を調べたところ陽性でした。また、J1型のウイルスが分離されました。9月11日に動物看護師の血清を用いた抗体検査を実施したところ、SFTSVの特異抗体が陽性でした。分離ウイルスについて全ゲノム解析を実施したところ、3株とも100%相同性を示しました。

ネコからヒトへの感染経路で考えられるのは、まずはネコが保有するダニに咬まれることです。また、エアロゾルを介した感染やネコの血液や体液を介した感染も考えられます。今回の事例でネコからヒトに直接的に感染したとする根拠は、まず分離ウイルスの遺伝子が100%一致したこと、ダニに咬まれていないこと、ネコに咬まれたり引っ掛かれていないことを挙げています。なお、今回SFTSを発症したネコは皮下点滴の際に出血し、獣医師と動物看護師が血液のふき取りと止血処置を行ったそうで、ネコの血液を介した感染が考えられています。今回の獣医師と動物看護師は治療を行う際に、感染予防対策としてグローブと手術用マスクを着用するなど、ある程度の防護具を身に着けていたにも係わらず感染したことになるわけで、SFTSの感染予防対策の難しさを示しています。SFTS汚染地域の獣医師や動物看護師は疑わしい症例に遭遇した場合、完全なる院内感染防止対策をとることが必要であることを、今回の事例は示しています。

なお、さらにSFTSの情報が必要な場合は、厚生労働省のホームページに掲載されている「SFTSに関するQ&A」が役に立ちます。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html

 

 

1)国立感染症研究所:SFTS発症動物について(ネコ、イヌを中心に) LASR Vol.40 p.118-119, 2019.

https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2467-iasr/related-articles/related-articles-473/8988-473r06.html

2)Yamanaka A, Kirino Y, Fujimoto S, et al.: Direct Transmission of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus from Domestic Cat to Veterinary Personnel. Emerging Infectious Diseases 26(12):2994-2998, 2020.