今年の嬉しかったこと

掲載日:2020.12.14

今年は新型コロナウイルス感染症の蔓延や、それに伴う経済の低迷など、あまり嬉しくないことの多い年になりました。その中にあって、私個人として嬉しかったのは、主宰するゼミの出身者2名が、卒業後の業績により学位を取得したことでした。今回はこのことを紹介したいと思います。

まず、2005年に卒業した湯川尚一郎君です。私は2004年に着任しましたので、まだ研究室の体制も不十分な時に入室した学生でした。卒論研究も十分にできないと判断し、札幌市の羊ヶ丘にある動物衛生研究所北海道支所の旧知である内田郁夫先生(現酪農学園大学教授)に卒論指導をお願いしたのでした。卒論テーマは、「PCR法を用いたSalmonella Typhimurium DT104の簡易スクリーニング法」でした。卒業後、いくつかの小動物病院を経て、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医学専攻博士課程に入学しました。現在は倉敷市にある倉敷芸術科学大学生命科学部動物生命科学科で准教授として動物看護師の育成を行っています。勤務する大学では自らの卒論研究を英語論文で公表(Acta Veterinaria Scandinavica 25:57-59,2015.)するほか、機材も不足する中で国内に流通するペットフードのSalmonalla属菌の混入について精力的に調査を行い、その成果を英語論文として公表しました(Epidemiology and Infection 147:1-6, 2019.)。折しも市販のイヌやネコ用のペットフード(トリーツ)に汚染していたSalmonella属菌により、イヌ14匹が死亡した疑いがあるとの報道がなされ、湯川君の研究論文をもとに農林水産省は注意喚起の文章を発出しました。今回はペットフードのSalmonella属菌の汚染実態調査成績をまとめたもので、大阪府立大学大学院から博士(獣医学)の学位を授与されたものです。現在もペット用生肉のSalmonella属菌の汚染調査に着手し、今や湯川君のライフワークにもなっています。

一方、二人目は2007年に卒業した坂上亜希恵さんです。坂上さんは研究室の薬剤耐性菌研究が軌道に乗ってきた時に入室した学生で、大学附属動物病院の依頼で病院スタッフのMRSA検査を実施したことを卒論研究にしました。思いのほか小動物臨床に携わる獣医師のMRSA保菌率が高かったことから研究を継続し、MRSAは以後の研究室の主要な研究テーマとなりました。在学中にMRSA研究をさらに深めるために、北里大学感染制御研究センターの花木秀明先生のもとで研修を受けてもらいました。卒業後に宮城県職員として公衆衛生業務に携わっていました。その後、調査研究をしたいという本人の希望で宮城県保健環境センター微生物部に異動となりました。その中で、卒論テーマであったMRSAの疫学調査を宮城県で実施しています(宮城県保健環境センター年報 36:33-38,2018)。今回の学位は、業務として取り扱っていたウイルス性食中毒の原因となるサポウイルスについて、東北大学大学院医学系研究科医科学専攻病理病態学講座微生物分野の押谷仁教授の指導の下、「宮城県におけるサポウイルスの集団感染と孤発例の遺伝子解析」をテーマに博士(医学)を授与されたものです。

以上紹介した二人の卒業生は、社会人としての通常業務の中で研究を進めてくれたもので、最終的に学位という形に収まったことを大変嬉しく思っています。大学では研究者を育成することを念頭に卒論研究を進めている訳ではありませんが、学生時代に研究の大変さを知るとともに、それ以上に研究の面白さを知って欲しいと思って指導しています。そのことが少しでも心に残っていて、学位に結びついたなら、教師冥利に尽きることであると思います。なお、お二人には話をしましたが、学位は研究の終着点ではなく、あくまで研究者としてのスタート時点であるということです。学位を持つ研究者として、今後の活躍を心から祈るものです。