酪農・畜産産出額が高い地域は自殺率が高い!

掲載日:2020.11.23

2019年の全国の自殺者数は、19,959人(速報値)となり、10年連続で前年を下回っています。男性は13,937人、女性は6,022人で、男性は女性の約2.3倍でした。人口10万人当たりの自殺者数(自殺死亡率)も、15.8人となり過去最低になっています。ただ、世界的に見ると日本の自殺率は決して低くなく、1998年以降、G7各国で1位を維持しています。今年は新型コロナウイルス感染症が流行し、日本経済が大打撃を受けましたので、自殺率が高まるのではないかと懸念されています。この自殺率ですが、農村は都会より高いことが世界各国から報告されているようです。今回、農業の種類と自殺率との関連が報告され注目されていますので、ご紹介したいと思います。

論文は東京大学大学院医学系研究科博士課程の学生である獣医師の金森万里子さんが書いたものです1)。研究は農林水産省による「農業地域類型区分」に基づいて、耕地率等から判断して農業的特性が強いと考えられる404市町村を選定して解析を行っています。その結果、「単位人口当たり酪農畜産産出額」が高い市町村では、男女とも自殺率が統計学的に有意に高いことが分かりました(表1)。また、男性より女性においてより強い相関関係が認められました。さらに分析した1983年から2007年の期間中、酪農・畜産産出額が高い地域では、男女ともに常に自殺率が高いことが分かりました。一方、農産物生産が盛んな地域では産出額と自殺に相関は認められませんでした。残念ながら今回の報告では、その理由について明らかにされませんでした。著者は酪農・畜産が盛んな地域では、酪農家や畜産農家はもちろん、他の職業の人でも、助けを求めるのが難しく、心身に負担の多い働き方をしている人が多い可能性があると述べています。

今回の報告を知るまで、自殺は殺伐として生きにくい都会に多いとばかり思っていました。それが我々とかかわりの深い酪農・畜産の活発な地域で、それも女性に産出額と自殺率に強い相関があることに驚きました。2018年1月から2019年12月に出版された論文の中で上位10%に多くダウンロードされことからも関心の高さが伺われます。原因究明は今後の課題とされているものの、安い外国産の乳製品や食肉がどんどん輸入される状況下で、農家が経営的に追い詰められている結果とも考えられました。特に農家の女性が強く影響されていることも考慮されるべきで、早期の自殺予防対策が進められることに期待したいものです。

本論文の著者である金森万里子さんは、北大獣医学部を卒業後に北海道でNOSAI勤務を経て社会疫学の研究へ進んだそうです。実際に現場での経験を基に研究を進める強みを持っており、今後のさらなる研究の発展に期待したと思います。なお、金森さんは12月13日にZoomで開催される中央競馬会畜産振興事業での「獣医師の働き方改革―畜ガールが描く未来―」でテーマは異なるものの講演予定とのことです。

 

1)Mariko Kanamori and Naoki Kondo: Suicide and type of agriculture: A time-series analysis in Japan, Suicide and Life-Threatening Behavier

https://doi.org/10.1111/sltb.12559