薬剤耐性菌はいつ出現するのか?

掲載日:2020.12.07

臨床に従事する獣医師であれば毎日のように抗菌薬を使っているはずです。しかし、自ら使用した抗菌薬で薬剤耐性菌を選択しているという実感はどなたにもないものと思います。抗菌薬の使用量が増えれば薬剤耐性菌は確実に増えているのに・・・。そう言う私自身も抗菌薬の適正使用を普及啓発しているのに、薬剤耐性菌はいつ選択されるのかとの問いに正確にデータで示すことができませんでした。そこで実験的あるいは野外で実際に家畜に対して抗菌薬を投与し薬剤耐性菌が出現することを科学的に明らかにしたいと考えるようになりました。今回は抗菌薬の使用により耐性菌が出現することを示した我々の研究論文を中心に紹介したいと思います。特に医療上重要な抗菌薬であるフルオロキノロン(FQ)剤と第三世代セファロスポリン剤を鶏と豚と牛に使用した試験成績になります。

 

1.鶏にFQ剤を投与した試験

日本で鶏に使用するFQ剤であるエンロフロキサシン(ERFX)が最初に承認されたのは1991年で、呼吸器性マイコプラズマ病と大腸菌症の治療でした。鶏には30~40%の頻度でキャンピロバクタ―属菌(主にCampylobacter jejuni)を保菌することが知られていましたし、細菌性食中毒の原因物質としてキャンピロバクタ―属菌の重要性が知られていました。そこで食肉を介したヒトの健康への影響を考えた時、FQ耐性キャンピロバクタ―属菌の出現状況が注目されました。JVARMが開始した1999年の成績では、実際に肉用鶏の糞便から分離されたC.jejuniの16.7%がERFXに耐性を示しています1)。この問題に最初に取り組んだのはJacobs-Reitsmaら(1994)2)で、19日齢の肉用鶏にキノロン感受性C.jejuniを接種し、26日齢で15あるいは50ppmのERFXを4日間飲水投与したところ、29、33、43日齢の鶏からERFX耐性C.jejuniが分離されたというものです。この試験では投与初期に薬剤耐性菌が出現したことは分かりますが、明確な時期は特定されませんでした。次に米国FDAの研究部に所属するMcDermottら(2002)は、ERFXと日本では承認されていないサラフロキサシンのさらに詳細な投与試験結果を報告しています3)。FQに感受性を示す鶏由来のC.jejuniの5株を混合して経口投与して定着させた鶏に、サラフロキサシンは16日齢に、ERFXは24日齢に各薬剤40ppmを飲水に混和して5日間投与しました。5羽の糞便をプールしたものをサンプルとして10コロニーを分離し、合計50株についてMICを求めました。図1のERFX投与群(A)を見ると、投与後1日目の分離株のERFXに対するMICは8μg/mLでシプロフロキサシンに対するMICは32μg/mLとなっています。なお、CLSIのERFXに対するブレークポイントは4μg/mLですので、全てが耐性株ということになります。サラフロキサシン投与群(B)でも、投与期間内にFQ耐性率(≧32μg/mL)は100%を示しています。これらの報告は日本での用法用量と若干異なることから、我々も日本での用法容量に準拠した試験を実施しました4)。その結果、ERFXを50ppmの濃度で3日間の飲水投与は迅速にFQ耐性菌を出現させ、gyrA遺伝子のAsp-90-Asnの変異を伴うものでした。したがって、日本の用法用量でERFXを鶏に使用しても迅速にRQ耐性菌を生み出すことが確認されました。

 

2.豚にFQ剤を投与した試験

鶏が高率にC.jejuniを保菌するように、豚も高率にC.coliを保菌することが知られています。そこで我々はカンピロバクター属菌を保菌する豚を用いて、FQ剤投与後のFQ耐性菌の出現状況を調べました(図2)5)。FQ感受性カンピロバクター属菌を保菌する豚5頭にERFXを5.0mg/kg/day 5日間筋肉投与しました。また、別の5頭にノルフロキサシンを5.0mg/kg/day 5日間経口投与し、経時的に糞便からカンピロバクター属菌を分離しました。(A)は糞便1g中のカンピロバクターの菌数(CFU)を示しており、いずれのFQ剤も投与期間中に一過性の菌数の低下が認められましたが、すぐに回復し投与前と同じ菌数のレベルを維持しました。一方、(B)では糞便中のFQ耐性カンピロバクター属菌の菌数の推移を示しており、投与前には検出限界以下であったのが、両FQ剤とも投与期間中に耐性株が出現し、投与終了後には107CFU/gの菌数を示しました。したがって、豚においてもFQ剤投与期間中にFQ耐性カンピロバクター属菌の出現を誘導することが明らかになりました。

 

3.牛に第3世代セファロスポリン剤を投与した試験

動物用の第3世代セファロスポリン剤として歴史が古く、牛や豚に最も使用されている成分がセフチオフル(CTF)です。牛に対しては肺炎、趾間フレグモーネ(趾間ふらん)、産褥熱が適応症になっています。北海道においてCTFを投与した牛20頭と少なくても過去1年半はCTFの使用がない牛(CTF無投与群)20頭を対象にし、1農家当たり1頭の牛から糞便を採材し大腸菌を分離しました。なお、CTF投与群では注射終了後8日目に採材しました。CTF投与群の2頭からのみCTF添加(4μg/mL)培地で大腸菌が分離され、CTF無投与群からは全く分離されませんでした。CTF投与群の1頭から分離されたCTF耐性大腸菌はblaCTX-M-2あるいはblaCMY-2を、もう1頭からの分離株はblaCTX-M-14を保有しており大腸菌への伝達性が認められました。したがって、CTFの牛に対する投与は基質特異性拡張型β⁻ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌の選択圧になるものと考えられました。

 

以上、医療上重要なFQ剤と第三世代セファロスポリン剤を投与した家畜から、容易に薬剤耐性菌が選択されることを示しました。また、FQ剤に対しては鶏と豚において投与期間中にFQ耐性カンピロバクター属菌が選択されることを明らかにしました。カンピロバクター属菌はGyrAのキノロン耐性決定領域の一か所の突然変異でFQ耐性を獲得することが知られており、大腸菌やサルモネラ属菌などに比べてFQ耐性化しやすいことはあるものの、鶏や豚においてFQ剤の用法用量に準拠した投与期間中に耐性カンピロバクター属菌が出現したことが注目されます。また、牛に対して第三世代セファロスポリン剤の投与によりESBL産生大腸菌を選択したことも注目されます。これらのことは、用法用量に準拠した投与であっても極めて迅速に薬剤耐性菌を選択することから、薬剤耐性菌の出現を抑制する慎重使用の徹底を図る必要があるものと思われました。

 

1)National Veterinary Assay Laboratory: A report on the Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System -2000 to 2007-, 2009.

https://www.maff.go.jp/nval/tyosa_kenkyu/taiseiki/pdf/jvarm2000_2007_final_201005.pdf

2)Jaconb-Reisma WF, Kan CA, Bolder NM: The induction of quinolone resistant Campylobacter bacteria in broilers by quinolone treatment, Letters Appl Microbiol, 19(4), 1994. https://doi.org/10.1111/j.1472-765X.1994.tb00950.x

3)McDermott PF, Bodeis SM, English LL, et al.: Ciprofloxacin resistance in Campylobacter jejuni evolves rapidly in chickens treated with fluoroquinolones, J Infect Dis, 185:837-840, 2002.

4)Takahashi T, Ishihara K, Kojima A, et al.: Emergence of fluoroquinolone resistance in Campylobacter jejuni in chickens exposed to enrofloxacin treatment at the inherent dosage licensed in Japan, J Vet Med, Series B, 52(10), 2005.

https://doi.org/10.1111/j.1439-0450.2005.00890.x

5)Usui, M., Sakemi, Y., Uchida, I., Tamura, Y. ; Effects of fluoroquinolone treatment and group housing of pigs on the selection and spread of fluoroquinolone resistant Campylobacter, Vet Microbial, 170:483-441,2014.

6)Sato, T., Okubo, T., Usui, M., Yokota, S., Tamura, Y. : Association of veterinary third-generation cephalosporin use with the risk of emergence of extended –spectrum-cephalosporin resistance in Escherichia coli from dairy cattle in Japan, PLOS ONE 9(4),e96101, 2014.

  図1.鶏にERFX(A)とサラフロキサシン(B)投与後のFQに対するMICの変化

 

 

   図2.豚にFQ剤を投与した後のFQ耐性カンピロバクターの出現