イヌの嗅覚を新型コロナウイルス感染症の検査に利用する!

掲載日:2020.10.12

イヌは毒物が混入した食べ物や腐った食べ物を並外れた嗅覚で検知し、危険を回避して生き延びてきました。この能力はイヌの解剖学的な特徴によるとされており、ヒトなどの霊長類では存在しない副嗅覚器として鋤鼻器(じょびき)があり嗅覚として重要な役割を果たすとされています。ヒトと比較したイヌの嗅覚は、酸臭で1億倍、腐敗バター臭で80万倍、ニンニク臭で2000倍などと言われています。この能力は家畜化されてからも維持されており、イヌの嗅覚はいろいろと応用されています。例えばこのコラムでも紹介した動植物検疫探知犬(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2597.html)や、麻薬探知犬、爆発物探知犬、銃器探知犬、警察犬などで活躍しています。最近では悪性腫瘍の検出を行うがん探知犬も国内で訓練が行われています。今回は現在、世界の最大の危害要因である新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査にイヌの嗅覚を利用しようとする論文をご紹介したいと思います1)

COVID-19の感染者の唾液や気管支分泌液は、症状があり鼻咽頭拭い液でSARS-CoV-2陽性とされた入院患者から採取しました。陰性サンプルはPCR陰性で過去に感染歴がなく、風邪や感染症もないヒトから得ました。得られたサンプルは匿名化してドイツで著名なハノーバー獣医科大学に送りました。イヌはSARS-CoV-2に感染するため、サンプルはベータプロピオラクトンでウイルスを不活化して使用しました。サンプルは4mlのガラス試験管においた綿パッドに100μl吸収させ、8匹のイヌを1週間訓練しました。試験は無作為化二重盲検法という厳格な方法を用い、サンプルの情報は術者に分からないようにして実施しました。1012サンプルを用いて調べたところ、イヌは157サンプルを正しく陽性とし、792サンプルを正しく陰性と判断しました。また、33サンプルが偽陽性(SARS-CoV-2陰性なのに陽性と判断)で30サンプルが偽陰性(SARS-CoV-2陽性なのに陰性と判断)となり平均検出率は94%(±3.4%)でした。イヌの嗅覚により試験の全体的な感度(SARS-CoV-2陽性でイヌの検査で陽性となる割合)は82.63%(95%信頼区間:82.02-83.24%)で、特異度(SARS-CoV-2陰性で検査で陰性となる割合)は96.35%(95%信頼区間:96.31-96.39%)でした。感度の幅は67.9%から95.2%で、特異度の幅は92.4%から98.9%でした。偽陽性、偽陰性、感度、特異度の詳しい説明はコラム(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3725.html)を読んでいただきたいと思います。

今回紹介したドイツでの研究に加えて、査読前の論文ですがフランスからも同様な研究が報告されています2)。これはSARS-CoV-2に感染したヒトの腋窩の汗をサンプルとしてイヌの嗅覚を利用して検出するというものです。このサンプルでも良好な検出率であったようです。現在、COVID-19の検査は、鼻咽頭拭い液や唾液を用いたPCR検査や抗原検査が行われています。また、診断というより疫学調査に用いられる抗体検査もあります。これまでは海外から厳しい入国規制が行われてきましたが、いつまでも規制を行うことが難しくなってきており、徐々に解除されていく方向にあります。海外からの入国者に対してCOVID-19の検査をするのですが、空港ということを考えればより迅速な検査が求められると思います。まだまだ検討の余地は沢山あると思いますが、動植物検疫探知犬や麻薬探知犬のようにコロナ探知犬という方法も考えられるのではないかと論文を読んで思った次第です。なお、報道によればフィンランドのヘルシンキ空港では実験的な試みとしてコロナ探知犬を配置し、渡航者の皮膚を布でふき取り、それをイヌが嗅ぎ分けて陽性と判定されたヒトは空港内に設置された窓口に行くように指示されるようです(https://www.asahi.com/articles/ASN9S324KN9RUHBI03B.html)。

 

1)Paula Jendrny et al.: Scent dog identification of samples from COVID-19 patients-a pilot study, BMC Infect Dis (2020)20:536

https://doi.org/10.1186/s12879-020-05281-3

2)Dominique Grandjean et al.: Detection dogs as a help in the detection of COVID-19 can the dog alert on COVID-19 positive persons by sniffing axillary sweat samples? Proof-of-concept study, bioRxiv preprint

https://doi.org/10.1101/2020.06.03.132134