動物における抗菌薬使用の黎明期

掲載日:2020.09.14

世界で初めて動物分野において使用された抗菌薬はサルファ剤であるプロントジル(prontosil)と言われています1)。サルファ剤の歴史は、1935年にプロントジルに抗菌作用が見いだされたところから始まり、体内で4-アミノベンゼンスルホンアミドに変換されて、PABAとの拮抗で葉酸合成を阻害することで抗菌作用を示すことが明らかにされました。また、抗生物質の最初の使用はペニシリンと考えている方が多いと思いますが、実は1940年にペプチド系抗生物質でイオノフォアであるグラミシジン(gramicidin)が牛の乳房炎の治療に使われた報告になります1)。しかし、毒性が強いことや溶血作用を示し、連鎖球菌には有効であるものの乳房炎の主な原因菌である黄色ブドウ球菌に対する作用が弱く実用化に至らなかったようです。1929年にフレミングにより発見されたペニシリン2)は、1940年にフローリーとチェーンにより単離され実験動物により臨床効果が確認された後、ヒトにおける臨床応用は1943年といわれています。動物分野におけるペニシリンの最初の応用は、次の年の1944年に黄色ブドウ球菌や連鎖球菌による牛の乳房炎の治療で著効を示したとの報告になります3)。なお、日本における動物用医薬品としてのペニシリン製剤は、小野の総説4)によると1951年に注射用ペニシリンGが承認されたと記載されています。しかし、残念なことに書類の保存期間も過ぎていることから正式には確認できませんでした。Meiji Seikaファルマ(株)のホームページによると、1955年に動物用ペニシリン飼料添加剤「メイリッチP」を販売したと書かれており、今も製品名として名前が残っています(https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/corporate/history/index.html)。また、田村製薬(株)のホームページには、1948年に前身の田村化学研究所がわが国初の抗生物質飼料添加剤「強力ペニシリン」を販売したことが記載されています(http://www.tamuraseiyaku.com/kaisha_annai/enkaku.html)。したがって、1948年から動物用として承認されたペニシリン製剤が家畜に使用されていたと考えられます。人体用のペニシリン製剤は1946年に万有製薬(株)と森永食糧工業(株)が承認されており4)、人体用とほぼ同時期に動物用も開発されたようです。今考えるとペニシリン製剤の販売当初は相当高価な医薬品だったはずですが、良くも動物用として承認を取得したものと感心します。なお、1940年代末期になると製薬会社のほか繊維、化学工業、醸造など様々な分野の会社が参入してペニシリン製造会社が乱立し、1950年代初頭になるとペニシリン製剤の価格が暴落することになり、その煽りで多くの会社が製造から撤退したようです。その過当競争に生き残った製薬会社が現在の日本の製薬業界をリードしています。

一方、発育促進を目的として抗生物質の飼料添加の効果を最初に報告したのはMooreら(1946)5)であり、ヒナにストレプトマイシン、ストレプトスライシンを投与し、ストレプトマイシンと葉酸との併用で発育促進効果を認めたものです。そもそもは医薬品製造時に廃棄される菌体残渣の有効利用として応用されたものです。従来日本では飼料に添加する成長促進用の抗菌薬と治療用の抗菌薬の明確な区別がなく、そのことが適正使用を妨害し耐性菌の増加の一因となっていました。そこでSwann報告6)が英国議会に提出されたことを契機に、1976年に従来法が「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」に改正されたことにより、飼料添加の抗菌薬は目的が異なる医薬品と飼料添加物に厳格に区別され規制が強化されました。この時に初めて抗生物質12品目と合成抗菌剤4品目の抗菌性飼料添加物が指定されました。この時、飼料添加物に指定された抗生物質製剤を特定添加物と呼び、医薬品に倣って国家検定対象としました。動物用医薬品としての抗生物質製剤の国家検定が廃止された後もなぜか特定添加物は検定対象として現在に至っています。以下、最初に指定された飼料添加物を列挙します。現在の使用される殆どがこの時に指定されたものであることが分かります。

 

■抗生物質:

亜鉛バシトラシン、アルキルトリメチルアンモニウムオキシテトラサイクリン、エンラマイシン、キタサマイシン、クロルテトラサイクリン、チオペプチン、デストマイシンA、ハイグロマイシンB、バージニアマイシン、フラボフォスフォリポール、硫酸コリスチン、リン酸タイロシン

■合成抗菌剤:

アンプロリウム・エトパベート、アンプロリウムエトパベート・スルファキノキサリン塩、デコキネート、ナイカルバシン

 

以上、動物における抗菌薬使用の歴史を述べてきました。ヒトに使用される医薬品としての開発と随伴するように動物用抗菌薬も発展してきたことが良く分かります。したがって、ヒトにおける耐性菌問題も動物に使用された時点から考えるべきことであったと思います。

しかし、当初は科学的なデータも不足しており、動物に由来する耐性菌は容易にヒトへ伝播しないという前提で規制を考えていたように思います。One Healthによる耐性菌対策を考える時代となった今、改めて歴史を振り返ることの重要性を感じます。

 

1)Kirchhelle C: Pharming animals: a global history of antibiotics in food production (1935-2017). Palgrave Communications 4:1-13, 2018.

2)Alexander Fleming: On the antibacterial action of cultures of a Penicillium, with special reference to their use in the isolation ofinfluenza. Br J Exp Pathol., 10:226-236 , 1929.

3)Kakavas JC: Penicillin in the treatment of bovine mastitis. North Am Vet., 25:408-412, 1944.

4)堀田国元:日本における抗生物質の源流―ペニシリンの開発―.Japanese J Antibiotics 63-2:179-204, 2010.

5)Moore ER, Evanson A, Luckey TD, et al.: Use of sulfasuxidine, streptothricin and streptomycin in nutritional studies with the chick. J Biol Chem 165:437-441, 1946.

6)動物用抗菌剤研究会:英国における家畜用抗生物質の使用とその問題点 Swann Report(1969) (寺門誠致訳) 動物用抗菌剤研究会報 創立40周年記念号 35, 39-92, 2013.