硫酸コリスチンの第一次選択薬

掲載日:2020.08.03

家畜に使用する硫酸コリスチンは、2018年7月1日に飼料添加物としての指定を取り消され農家での使用が禁止されました。また動物用医薬品としてのコリスチン製剤は2017年9月20日に第二次選択薬に位置付けられました。第二次選択薬になった理由はこのコラムでも紹介しましたので参考にして下さい(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2423.html)。コリスチン製剤の効能効果は、「有効菌種として大腸菌、サルモネラ、キャンピロバクタ―」で、適応症として牛と豚ともに「第一次選択薬が無効の場合の細菌性下痢症」です。一般に野外では主に豚の浮腫病に使用されることが知られています。浮腫病でも志賀毒素であるStx2eとエンテロトキシンを産生する大腸菌が原因の感染では下痢を呈する場合があります。コリスチン製剤は最初から使えなくなりましたが、では浮腫病の第一次選択薬は何なのでしょうか?今回はこのことを考えてみたいと思います。

浮腫病の第一次選択薬を豚の臨床獣医師や農家に聞いてみると、有効であったビコザマイシンの販売が中止され、炭酸亜鉛かギ酸を使っていることが多いとの回答が複数から得られました。多分、一般的に豚農家で実施され、治療薬というより飼料添加物としての代替的な利用だと思われます。ただし、亜鉛製剤は誤用や攪拌ミスで豚に亜鉛中毒を起こすこともあり、また、投与された亜鉛が糞便と共に環境に放出され環境汚染の可能性も指摘されていることから注意して使用する必要があります1)。さらに、欧米で問題視される遺伝子型がST398の家畜関連型MRSA(LA-MRSA)(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2336.html)が国内の豚からも分離されており、多くの分離株が亜鉛耐性遺伝子(czrC)を保有しています。したがって、亜鉛製剤の過剰使用がLA-MRSAの選択圧となって、現在、限定的な本菌の蔓延に影響する可能性もあり、慎重な使用が求められます。

次に浮腫病を治療するための第一次選択薬を考えてみたいと思います。報告された浮腫病由来の志賀毒素産生大腸菌(STEC)65株の薬剤感受試験成績2)をみてみますと、全ての供試薬に感受性であったのは11株(16.9%)だけで、55株(84.6%)は何らかの耐性を示しました。具体的には、OTC53株(81.5%)、SM35株(53.8%)、CP27株(41.5%)、ABPC23株(35.4%)、ST17株(26.2%)、KM9株(13.8%)が耐性でした。一方、GM、CL、FOMおよびERFXにはすべての株が感受性を示しました。菌株により薬剤感受性が異なることから、浮腫病の経験的治療は困難です。原因菌については確実に薬剤感受性試験を実施し、最適な抗菌薬を選択する必要がありそうです。抗菌薬の選択に当たっては、薬剤感受性試験の結果に加えて抗菌薬の種類によって原因菌の細胞破壊に伴う志賀毒素の放出についても考慮する必要があります3)。実際に抗菌薬の投与が原因とされる子豚の死亡例も報告されています4)。折角、体内の原因菌が排除されたのにも係わらず毒素により重症化して死亡する事態は避けたいものです。この意味でFOMは適応除外となります。志賀毒素の放出の少ないCLやERFXは第二次選択薬であり使用できないので、アミノグリコシド系抗生物質であるGMが第一選択薬候補として適当に思われます。幸いにGMの経口投与剤は豚に適応があります。また、データはありませんでしたが、同じくアミノグリコシド系のアプラマイシンの経口投与剤も豚に適応があることから候補になる可能性があります。

硫酸コリスチンについては食品安全委員会の健康影響評価結果を受けて、農林水産省は「動物用抗菌性物質製剤のリスク管理措置策定指針」(https://www.maff.go.jp/nval/tyosa_kenkyu/taiseiki/pdf/240411.pdf)に準拠してリスク管理措置として第二次選択薬と決めました。リスク管理措置が二次的リスクを生み出すというリスクのtrade-offにならないように、国として第一次選択薬の使用を徹底させる必要があると思います。

 

*OTC:オキシテトラサイクリン, SM:ストレプトマイシン, CP:クロラムフェニコール, ABPC:アンピシリン, ST:スルファメトキサゾール/トリメトプリム, KM:カナマイシン,  GM:ゲンタマイシン, CL:コリスチン, FOM:ホスホマイシン, ERFX:エンロフロキサシン

 

1)日本養豚開業獣医師協会(JASV):脱抗菌性飼料添加物への取組事例集, 平成29年度国産畜産物安心確保等支援事業(独立行政法人畜産業振興機構)

http://www.e-jasv.com/alic.pdf

2)又吉正直ほか:浮腫病由来志賀毒素産生大腸菌の病原遺伝子、薬剤感受性および薬剤耐性遺伝子, 豚病会報 56:7-11, 2010.

https://tonbyo.com/proceedings/597.html

3)末吉益雄:子豚の下痢を伴う浮腫病(大腸菌性腸管毒血症), 豚病会報 48:7-13, 2006. https://tonbyo.com/proceedings/545.html

4)由地祐之ほか:生物製剤および抗菌剤の併用による豚の浮腫病防除対策, 家畜診療 47:423-428, 2000.