抗菌薬の個人輸入を考える

掲載日:2020.07.27

コンピューターやスマートフォンの普及により、インターネットを通じての商品売買が花盛りです。毎日の生活が忙しい中、家庭で様々な商品の情報が容易に入手でき、手軽に商品を購入できることなどから、さらに拡大する勢いがあります。このような電子商取引を利用して動物用医薬品も購入することができるようになってきました。それ自体は利便性を向上させることでもありあながち否定するものではありませんが、いろいろな輸入代行サイトを見て驚くことに一般の方々が容易に人体用あるいは動物用の抗菌薬を購入できる状況にあることです。世界的に医療における薬剤耐性菌の蔓延が非常に大きな問題となっており、医師や獣医師のみならず一般の方々に対しても抗菌薬の適正使用が求められている中、極めて由々しき状況にあるといえます。これまでの産官学が協力して推し進めてきた抗菌薬の適正使用の普及啓発活動を反故にする重要事案であると考えます。そこで今回は抗菌薬の個人輸入について考えてみたいと思います。

動物用医薬品としての抗菌薬は病原菌に対して耐性を生じやすく、使用期間中に獣医師の特別の指導が必要とされ、要指示医薬品に指定されています。また、抗菌薬を使用する獣医師は動物を診察せずに投薬することが獣医師法で禁止されています。感染症は一刻一刻と病状が変化しますし、抗菌薬の不適切な投与は耐性菌を生じさせる原因ともなることから、抗菌薬は専門的な知識を持っている獣医師の関りでしか使用できないのです。このことを考えると一般の方々が自分の飼育する動物であっても自己判断で安易に個人輸入の動物用あるいは人体用の抗菌薬を使うべきでありません。

次に動物用医薬品の個人輸入について説明したいと思います。獣医師が個人輸入する場合と手続きが異なりますので、ここでは一般の方が個人輸入する場合に限らせていただきます。この制度の目的はあくまで自分の飼育するイヌやネコの病気を治療するために海外の動物用医薬品を使うための制度であることを認識する必要があります。日本での獣医療費が高いというような経済的な話ではないのです。まず動物ですが、牛、馬、豚、鶏、うずら、みつばち及び養殖されている水産動物に対する動物用医薬品は残留の問題があるため輸入できません。また、ワクチンも生きた微生物が混入し伝染病を引き起こす可能性があるため輸入できません。個人で輸入した動物用医薬品は日本国内で承認されたものでないことから、日本国内での販売や譲渡が禁じられています。無償で提供しても罰せられます。なお、個人輸入した動物用医薬品は、日本国内でその効能・効果や安全性が認められたものでないことに留意する必要があります。その使用により生じた副作用に対しても、一切の責任は輸入者である飼い主の皆様にあることを認識すべきです。

個人輸入または海外で購入して持ち帰った場合も、税関または通関業者からの到着などの連絡後に必要書類を作成します。提出された書類は農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課で確認し、要件が満たされていれば、「確認済」の印を押して返送されます。なお、抗菌薬などの要指示医薬品は、獣医師から交付を受けた処方箋または指示書の写しを書類と一緒に提出することが必要です。したがって、一般の方が抗菌薬を個人輸入するにはいくつものハードルがあることを承知して下さい。また、個人輸入する動物用医薬品の中には、偽造品である可能性もあり、重大な副作用の可能性も指摘されています。さらに最近、動物用医薬品の輸入代行を業務とする会社もあり、ネット上で動物用医薬品を販売するケースも目立っています。中にはこれから販売されるような新規の動物用医薬品も売られているのです。多くは海外に拠点があるようで、現在の法律では輸入代行そのものを取り締まることが困難であるといえます。国内で承認がある製剤であっても未承認薬として取り扱うとされており、未承認薬の広告(インターネット販売)は明らかな法律違反に当たります。私の個人的な見解では、これでも軽いものであり、さらに重くすべきと考えています。

一方、イヌやネコに対して60%は人体用抗菌薬が使用されている実態があり、人体用医薬品の個人輸入を考えている方もおられるかもしれません。医療用医薬品の個人輸入については動物用医薬品と別の取り扱いになっています。個人輸入には、原則として地方厚生局で必要書類を提出し、法律に違反する輸入でないことの証明を受ける必要がありますが、一定の範囲内であれば、特例的に「税関限りの確認」で通関することができます。なお、自己判断で使用すると重大な健康被害を生じるおそれがある医薬品は、数量にかかわらず、医師による処方が確認できない限り、一般の個人による輸入は認めらないとされています。したがって、明確に記載されていませんが、抗菌薬もこの部類の医薬品に相当すると考えられますので、個人輸入はできないことになります。

上記のように動物医薬品や人体用医薬品としての抗菌薬に関する個人輸入について書きました。紹介したように制度上は抗菌薬を個人輸入できないことになっていますが、海外にある輸入代行業まで完全に規制することが難しいため、ネットで購入できる実態があります。しかし、医療における耐性菌の蔓延に対して動物分野との連携が世界的に進められている現状(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3000.html)を考えると、イヌやネコの飼い主の皆様も抗菌薬の使用は獣医師の指導の下に慎重に行っていただきたいと心からお願いしたいものです 。