類鼻疽(るいびそ)-海外で注意すべき人獣共通感染症-

掲載日:2020.07.20

類鼻疽(melioidosis)は日本での発生がなく、東南アジアやオーストラリアなどの旅行中に感染し、帰国後に発症が報告されている感染症です。これまでの報告を見ると、2010年に仕事でベトナムへの渡航を繰り返していた男性での発生1)やタイから帰国者の報告2)、2019年にタイから帰国した男性の死亡報告(千葉日報,2019年8月29日)などがあります。非常にまれな人獣共通感染症ですが、死亡例もあり、これらの国々に行く機会も多いことから、今回は類鼻疽を紹介したいと思います。

病名からして推察されるように、これとは別に鼻疽(glanders)という鼻疽菌(Brukhorderia mallei )による人獣共通感染症があります。鼻疽は馬、ロバ、ラバなどの感染症で、家畜伝染病予防法(家伝法)で法定伝染病に指定されています。しかし、現在では日本を含む多くの国で清浄化されています。今回の類鼻疽は、鼻疽菌によく似た類鼻疽菌(B. pseudomallei )による細菌感染症で熱帯、亜熱帯地区の特にオーストラリア北部、タイ、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、ベトナム、中国南部、台湾で発生があります。本菌は土壌菌の一種で土壌や環境水に分布し、げっ歯類、綿羊、山羊、馬、豚、猿、牛、犬、熱帯魚、野生動物で発生が見られ、まれに人にも感染します。本病の日本における動物での発生はありませんが、家伝法では届出感染症に指定されています。

次に、人の類鼻疽について詳しく説明したいと思います。発生地域で土壌や環境水、あるいは感染動物や肉から、経気道的あるいは経口的に感染が起こります。しかし、動物から人へ、あるいは人から人への感染はまれです。台風のあとに類鼻疽が流行するとの報告3)があり、主な感染経路は本菌に汚染された土壌、粉塵、水等の吸引や、これらによる創面の汚染によると思われます。潜伏期は通常3~21日ですが、20数年にわたる場合もあります。感染しても多くは症状を現わさない不顕性感染でありますが、発症すると死亡率は高く、難治性、再燃性であることが知られています。世界で年間165,000人が感染し、死亡者数は89,000人といわれています。本病に特徴的な症状はなく、最も多い感染臓器は肺であり、一般的な細菌性肺炎と同様に急性経過での発熱、咳嗽、喀痰、悪寒、呼吸困難などがみられます。経皮感染では局所皮膚の腫脹、膿瘍形成が見られ発熱を伴うこともあります。初診時に半数以上の症例で菌血症を伴っており、敗血症性ショックをきたすことも多いといわれています。菌血症に伴い全身の諸臓器に膿瘍を形成し、その中でも脾臓、腎臓、前立腺、肝臓内の頻度が高いようです。患者側のリスク要因としては、基礎疾患として糖尿病、過度の飲酒歴、慢性腎疾患などがあげられています。治療は類鼻疽菌に効果が期待できる抗生物質を用いて治療します。治療期間は長期間に渡ることもありますし、また一旦治癒したかに見えても先にも述べたように後日再燃することもあります。そのため病状の変化に注意を払うことの重要性が指摘されています。再燃例2)としては、2003年にタイから帰国後に発症した事例で、当時、敗血症と多臓器にわたる化膿性病変および蜂窩織炎と骨髄炎を発症した患者です。患者の血液、尿、関節液培養により、類鼻疽菌が分離されたため、類鼻疽と診断され、約3ヵ月間の投薬治療を受けて退院しました。その後2010年2月に左足の骨髄炎を発症し、2003年に治療を受けた病院を再受診したところ、骨髄液から類鼻疽菌が分離されたものです。それぞれの分離株について調べたところ、薬剤感受性パターンや遺伝子型(ST404)が一致したことから再燃例とされたものです。類鼻疽が再燃しやすい理由は、食細胞(マクロファージなど)などの中で何年間も生存可能な細胞内寄生菌であるため、ストレスなどの患者の体調次第では再増殖するものと考えられます。なおST404はまれな遺伝子型で、タイの水から分離報告されているものでした。予防として流行地域に行く場合は、加熱した食品を食べることや、ケガをした際に局所を洗い流すなどの処置を行い、清潔を保つことが重要です。

 

1)倉田希代子:ベトナムで感染した類鼻疽の1例,IASR 31:107-108, 2010.

2)東京都感染症情報センター:類鼻疽

http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/epid/y2010/tbkj3106/

3)Ko WC, Melioidosis outbreak after typhoon, southern Taiwan, Emerg. Infec. Diseas. 13(6):896-898, 2007.