養豚分野における抗菌薬使用の低減化の試み

掲載日:2020.07.13

薬剤耐性菌対策として重要なデータである動物分野における抗菌薬の使用量は、このコラムでもすでに紹介したところです(cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2535.html)。大まかに説明しますと2011年の成績で動物用医薬品としての治療用抗菌薬は787トンで、飼料添加物としての成長促進用抗菌薬は234トンとなり、人体用の抗菌薬の2倍弱が動物に販売されていることになります。その内の約500トンが豚に、主にテトラサイクリンが販売されていることを紹介しました。

2016年に制定された薬剤耐性対策アクションプランによれば、2020年までに動物に由来する大腸菌のテトラサイクリン耐性率を現在の45%から33%に低減化することを成果指標としています。したがって、豚における抗菌薬、特にテトラサイクリン使用量の低減化は喫緊の課題となっています。しかし、アクションプランも終盤を迎えているものの大幅な耐性率の低下は認められていない状況にあります。

このような中、2019年12月6~7日に北大農学部大講堂で開催された第9回家畜感染症学会学術集会で養豚分野における抗菌薬使用の低減化の試みに関する興味ある二つの発表を聞いたことから、今回はその概要を紹介したいと思います。

まず、あかばね動物クリニックで豚の管理獣医師を長いこと務められている伊藤貢先生は、「養豚管理獣医師が目指す抗菌剤使用の対応」と題して講演を行い、生産者と管理獣医師が一緒になって抗菌薬の慎重使用に取り組んでいる現状を紹介されました。現在、抗菌薬を使用する主な感染症として連鎖球菌症と浮腫病を挙げられ、2018年7月から飼料添加物の硫酸コリスチンが使用禁止となったことから、炭酸亜鉛や酸化亜鉛の無機亜鉛製剤を高濃度で飼料に添加している状況を示しました。高濃度の亜鉛は環境汚染の原因になる他、家畜関連型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(LA-MRSA)の選択圧になる可能性があり、使用を控えるべきであることも指摘されました。また、出荷する豚1頭当たりの抗菌薬の使用量は、5~35gの農場が多いものの、60gを超える農家も少ないながら存在することを示し、農家における抗菌薬の使用にバラツキがあることを示しました。さらに先生が会員である日本養豚開業獣医師会(JASV)は、農研機構食農ビジネス推進センターと共同で、養豚農家の抗菌薬の使用量を4半期ごとに報告して、集計結果を農家にフィードバックするベンチマーキングシステム(PiginfoBio)について紹介しました。このシステムでは同時に農家の生産指標データも収集・解析し、農家に返却することにより、抗菌薬の低減化に貢献していることを述べました。このシステムを応用した結果、飼育豚のオールイン/オールアウト(AI/AO)方式が感染症の制御に有効で抗菌薬使用量の低減化に繋がることを指摘しました。ただ、まだまだPiginfoBioに参加する農場が少ないことから今後農場数を増やすことが課題でありそうです。まとめとして、抗菌薬の低減化のために以下の3点を強調しました。それは、①強い強制力で生産者と獣医師を指導すること、②農場ごとの抗菌薬使用量のデータを収集すること、③病気を予防するためのストレス軽減策をとることでした。

次に高橋とんとん診療所と豚農場を経営する高橋佐和子先生は、「養豚場における抗菌薬使用低減への取り組み」と題して、自らの農場の実例について講演しました。まず旧農場ではマイコプラズマ肺炎、豚胸膜肺炎、豚萎縮性鼻炎など感染症が蔓延していたそうです。その離乳舎では1週齢ごとのグループに分けられた子豚が鉄柵のみで仕切られた豚房で飼育されており、豚同士が鉄柵を介して直接接触できる状況でした。そこで母豚の乳量を上げることや哺乳期間を延長することで離乳子豚の状態を改善に努めたそうです。また、農場の一部の生産区分の豚をオールアウトし、畜舎の洗浄・消毒を徹底して空舎期間を設けるパーシャルデポピュレーション(PD)を実施したところ、事故率が確実に減少したそうです。さらに農場HACCPを導入して衛生管理を徹底した結果、疾病の起こりそうな要因を事前に見つけ対策を講じるという意識改革が進んだようです。その後に新設した新農場では、農場HACCPを導入するのみならず、バイオセキュリティーの高い畜舎構造として、SPF養豚を開始したそうです。また、新農場ではスリーセブン方式という、3週間分の母豚をまとめて交配、分娩、離乳させることで、母豚や子豚のロット当たりの頭数を増やし、AI/AO方式を採用したことが特徴として述べられました。新農場を立ち上げて2年を経過したところ、抗菌薬を用いた郡単位での治療や予防を行っていないということでありました。

以上の二つの講演で共通することは、養豚農家におけるAI/AO方式の導入が感染症を減少させ、これに伴って抗菌薬の使用量の低減化につながることでした。また、農家自身の意識改革も重要な要素で、One Healthでの耐性菌対策に農家自身も直接的に参加しており、健康な豚を生産するという使命感を持って養豚に取り組んで欲しいと切に思った次第です。以上のお二人は本学獣医学科の卒業生であり、立場は異なりますがそれぞれの現場で抗菌薬の慎重使用に取り組んでいることを頼もしく拝聴した次第です。

なお、これらの二つの講演については以下の学会誌に詳しく書かれているので参考にして下さい。

 

1.伊藤貢,水上佳大:養豚管理獣医師が目指す抗菌剤使用の対応,家畜感染症学会誌 8(4):115-120, 2019.

2.高橋佐和子:養豚場における抗菌薬使用低減への取り組み,家畜感染症学会誌 8(4):121-125, 2019.