検査で陰性ということの意味とは?

掲載日:2020.05.25

私たちは健康診断や病気の検査において、しばしば血液や尿などのサンプルをもとに臨床検査を受けることがあると思われます。また、現在、世界中で蔓延している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においても、PCR検査であるとか抗原検査や抗体検査などが行われております。それらの検査結果で陽性であるとか、陰性であるとかを知り、皆さんは一喜一憂していると思われます。しかし、検査で陽性や陰性の意味を本当に理解しているでしょうか?病気の診断において、検査結果が陽性であれば病気で、陰性であれば病気でないと断定できるのでしょうか?今回は主にCOVID-19の検査を例に検査での陽性や陰性の意味を考えてみたいと思います。

COVID-19の診断にPCR検査が汎用されていることはご承知の通りです。正確にはリアルタイムRT-PCR法と呼ばれるもので、COVID-19の原因ウイルス(SARS-CoV-2)の特定の遺伝子を増幅して検出する方法になります。リアルタイムとは通常のPCR法よりも検出感度が高い、つまり少ないウイルス量でも検出できる方法になります。またRTとはSARS-CoV-2がRNA型ウイルスのため、検査を行うためにRNAからDNAに変換する過程をいいます。どんな病気でも同じですが診断に使われる検査は、実際に病気(感染)の人を完全に診断でき、感染していない人には反応しないことが理想です。しかし、実際にはこのような完全な検査法は存在しないと考えた方が正しいと思います。当然、理想的な方法の開発を目指すのですが、そのレベルに達せなくても、他の方法より診断に使われる有用性があれば標準法として設定されるのです。標準法は科学の進歩によって、より正確に診断できるように改良していくのが常で、現時点での最善の方法といえそうです。したがって、検査を受ける人は検査結果の意味を正しく理解することが重要と考えられます。

今、仮にAという病気を診断するBという検査法を開発したとします。B法で求めた検査値を陽性と陰性に区別する値をカットオフ値(病態識別値)と呼びます。図1(A)のように、病気の方を陽性と100%検出でき、病気のない方を陰性と100%検出するカットオフ値が理想になります。しかし、実際はさまざまな理由で、図1(B)のように病気の方と病気でない方の検査値に重なる部分ができます。できる限り重なりが少ない検査法が良い検査法となります。図2に検査値の分布とカットオフ値の関係を二次元の図(ROC曲線)で示めしますと、通常は病気なのに陰性(偽陰性)となったり、病気がないのに陽性(偽陽性)を示すことがあるのです。病気の人を100%検出するカットオフ値を採用すると、偽陽性が非常に多くなり、病気でない人を病気と診断する危険性が高まります。偽陰性や偽陽性がない検査法を開発したいのですが、残念ながら常にこの問題が付きまといます。さらに具体的な人数で示すと、確実にAという病気に診断された32名と病気でない258名のサンプルを使用してB法を行った結果を表1に示しました。確実に診断されたとは、感染症であれば特徴的な症状があり病原体が分離されるなどの診断基準に適合した方となります。この事例では、B法で陽性であったのが116名で、病気と診断された32名中24名が陽性(真陽性)で、病気でないのに陽性を示したのが92名(偽陽性)でした。また、検査で陰性であった174名の内訳をみると、病気でない166名(真陰性)と病気である8名(偽陰性)が含まれています。開発された検査法の正確性を示す指標として感度(病気と診断された方のうち、検査で陽性となる人の割合)と特異度(病気でない人のうち、検査で陰性となる人の割合)があります。この事例でB法の感度は、(24/32)×100=75.0%であり、特異度は(166/258)×100=64.3%となります。理想的な検査法は先ほども述べたように感度100%で特異性100%ですが、実際はこのような方法はほとんどなく、新たな検査法は、簡易性、受け入れやすさ、正確さ、費用、精度あるいは再現性、感度、特異度などを指標として妥当性が判断されるのです。この事例では、B法で陽性とされた人の内、25.0%の病気でない人が含まれ、陰性とされた人の内、35.7%に病気の人が含まれます。

では、話をCOVID-19に移します。現時点でCOVID-19では不明な点が多く、実際に感染しているかどうかの正確な診断が難しい状況で、PCR検査がどれほど正しく診断できているかの感度と特異度の計算はできていません。現時点では先の図や表の病気のあるなしを正確に判断できないのです。また、PCR法という検査法が持つ特徴(欠点といえるかもしれません)として、サンプルにある程度のウイルス量がなければ検査で陽性を示さないことが挙げられます。サンプルの採取方法が不適切であったり、感染しているのにウイルス量が不十分であれば陰性となります。また、さらに複雑なのですがサンプル中のウイルス量は常に一定でなく、サンプルの採取部位(鼻腔か咽頭)や感染からの時間で異なっています。したがって、試験の感度を求めるには様々な要因を考慮する必要があるのです。日本疫学会のホームページ(https://jeaweb.jp/covid/qa/index.html)には、PCR検査に関する様々な科学的な情報が文献を引用して紹介されていますので、COVID-19のPCR法に関してさらに知りたい方の参考になると思います。このホームページによると、公表論文の情報からPCR法の感度を、感染から8日目(症状発現の3日後)に偽陰性の割合が最も低くなり、感度として最も良い80%と述べています。最も良い条件でも20%の偽陽性を含むのです。さらにPCR法は遺伝子検査であることから、陽性であっても感染性のある生きたウイルスなのか感染しない死んだウイルスなのかを識別できません。

以上のことをまとめてみますと、検査で陽性と判断された場合でも、真陽性に加えて偽陽性が含まれるということを理解して欲しいと思います。感染症対策として考えてみれば、偽陽性の方には申し分けないのですが、陽性者として対応を図ることで、感染の連鎖を打ち切ることができます。問題なのは陰性とされた場合で、真陰性に偽陰性の方が含まれ、病気であるのに病気と診断されない可能性があることです。感染症であれば感染を広げる可能性がありますし、病気を進行させてしまう恐れもあるのです。したがって、検査で陰性ということは病気でないことを完全に証明することではなく、その検査で陰性であったと考えることが重要に思えます。真陰性を明確にしたいと考えるのなら、定期的に検査を受けることや、別の検査法も併用することをお勧めしたいと思います。COVID-19の患者が回復したか(退院)の判断を2回のPCR検査で陰性としている理由でもあります。ただし、回復した患者でも再感染している事例もあることを考えると、まだまだ不明な点が多いのがこの感染症といえそうです。