ネコは新型コロナウイルスに同居感染する!

掲載日:2020.05.18

ネコの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する感染性については、これまでもこのコラムで逐次紹介してきました。まず、ベルギー食品安全庁が3月27日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した方が飼育するネコの感染事例を報告したことに始まります(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3489.html)。このネコには「一過性の呼吸器系・消化器系の問題」が見られたと述べていますので軽度の症状を示したものと思われます。次いで、4月5日に米国農務省(USDA)はニューヨークの動物園で飼育するネコ科のトラ1頭が感染したことを明らかにしました(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3542.html)。このトラは呼吸器系の症状を示していたようです。これらの報告では症例数も少なく、ネコとネコ科のトラでの報告だけであり、明確にネコがこのウイルスに感染するかどうかは明らかではありませんでした。このような状況の下、4月8日に米国の著名な科学雑誌のScienceにハルピン獣医学研究所から、感染試験により各種動物のSARS-CoV-2に対する感受性を調べた研究が報告され注目されました(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3566.html)。結論としては、イヌ、豚、ニワトリ、アヒルでは感染させたウイルスの増殖は不十分であったものの、ネコとフェレットでは確実に感染することが明らかになりました。また、同居ネコにも感染することも分かりました。しかし、この試験は非常に少ない数のネコを用いたものであり、また近交系といって遺伝学的なバックグランドが一致したネコであったことから、供試したネコの持つウイルスに対する感受性が試験結果に影響した可能性もあり一般に飼育されるネコに当てはまるのか疑問が残りました。その後、4月22日に米国疾病予防センター(CDC)とUSDAは、アメリカでペットのネコ2頭がPCR検査で陽性となったことを明らかにしました(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3618.html)。ネコは軽度の呼吸器症状を示していたようです。これはアメリカでの最初のペットでの陽性例になったとともに、先の動物実験結果を確認することにもなりました。以上のことから、COVID-19に関する情報は限られているものの、ネコはSARS-CoV-2に感染する可能性が高く、特に飼い主が罹患した場合はネコの飼育に注意する必要があるものと思われました。

今般、政府のCOVID-19対策専門家会議のメンバーである東京大学医科学研究所の河岡義裕教授のグループが、一般的な飼い猫を用いたネコの同居感染性に関する実験により、確実にSARS-CoV-2がネコに同居感染を起こすることを明らかにした論文を公表しました1)

供試したネコはSPF(特定の微生物に感染していない)の一般に飼育されているネコ(15~18週齢)3頭を用いて、5.2×105PFU*のウイルス量を確実に感染させるために鼻腔、気管、経口、眼内に接種しました(接種ネコ)。下に示した図のように、2頭は接種後1日目から、もう1頭は2日目から鼻腔拭い液でウイルスが検出され、接種後5~6日までウイルスが検出されました。この3頭の感染ネコにウイルス接種後1日目から別々に未感染ネコ1頭を同居して飼育しました(同居ネコ)。つまり、3系統の感染ネコと同居ネコのペアができたことになります。その結果、同居ネコはそれぞれ同居3日目、5日目、6日目の鼻腔拭い液からウイルスが検出され3ペアとも同居感染が成立したのです。ウイルスの検出は4~5日間持続し、同居後10日目ですべてのネコからウイルスは検出されませんでした。なお、先の中国における感染試験では糞便からもウイルスが検出されましたが、今回の直腸拭い液からは全く検出されませんでした。試験期間中全てのネコは何ら臨床症状を示すこともなく、ウイルスを接種したにもかかわらず体温も38~39℃の平熱を維持しました。以上のことから、ウイルス検出期間は短期間でしたが、確実にウイルスを排出している飼いネコと同居することでネコに感染させることが明らかになりました。また、同様に重要な点はこれまで感染ネコは発症する可能性が高いと考えられていましたが、今回の試験で無症状でもウイルスを排出していることが分かりました。なお、ウイルスの受容体結合タンパクを抗原としたネコの抗体を調べたところ、5,120~20,480倍と高い抗体価を示しました。このことからネコ体内でウイルスが確実に増殖したことを確認することができました。ただし、ネコを感染させるのに必要な最低ウイルス量であるとか、感染ネコからヒトへの感染が起こるのかなどは今後の課題とされました。

米国のネコでの自然発生例を契機に、CDCはネコを飼育するに当たっての注意点を公表しています。それにこれまでの事例から若干の追加事項を加えたのが以下のことになります。是非ともネコと生活を共にしている方はこのことを念頭に毎日を過ごしていただければ幸いです。

 

■屋外のヒトや他のネコと触れさせないでください。

■可能な限りネコを室内に置いてください。

■飼い主に感染が認められた時は、可能な限り別の部屋で飼い主以外の方にネコの世話をしてもらいましょう(少なくとも2週間)。

■撫でる、寄り添う、キスや舐められる、食べ物や寝具を共有するなどのネコとの濃厚な接触を避けましょう。

■糞尿の処理は手袋を装着して速やかに実施しましょう。

■ネコの世話をする場合は、ネコは接触する前後に十分に手を洗ってください。

 

*PFU: プラーク形成単位のこと。ウイルスは細胞に感染し増殖すると、細胞に壊死を引き起こす。その性質を利用してウイルスの定量に用いられる。

 

1)Peter J. Halfmann, et al., Transmission of SARS-CoV-2 in domestic cats, New England J Med., doi:10.1056/NEJMc2013400