待望の「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き」が発行

掲載日:2020.04.20

愛玩動物(伴侶動物)に使われる抗菌薬の多くが人体薬を適応外使用されていると言われてきました。したがって、農林水産省が毎年集計するイヌやネコに使用することが承認された動物用抗菌薬の販売量の統計では小動物病院での使用実態全てを表していなかったのです。2016年に制定されたわが国のAMR対策アクション・プランでも、耐性菌対策を実施する上で人や動物の抗菌薬の使用量を把握することの重要性が述べられています。このような背景の下、農林水産省は卸売段階における小動物病院での人体用抗菌薬の販売量調査を初めて実施し、2019年8月19日付けでその結果を公表しています(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/3193.html)。その結果、2016年度に伴侶動物病院へ販売された人体用抗菌薬の総量は6,480.7kgであることが分かりました。これはイヌやネコ用として承認された抗菌薬の販売量を足して求めた全抗菌薬の45.4%が人体用抗菌薬で占められていることが分かったのです。人体用抗菌薬は当然のことながらイヌやネコでの使用を想定したものでないことから、動物での用法・用量も科学的根拠に基づいたものでなく、使用する獣医師の経験的治療によるものとなります。このことは抗菌薬の過剰使用や誤用につながり、耐性菌出現の基礎になったものと考えられます。

一方、伴侶動物が我々の生活と密接に関連してきたことから、伴侶動物における耐性菌の出現状況を明らかにすることが求められるようになりました。しかし、伴侶動物に由来する耐性菌の調査は、これまで大学などが実施する特定地域の限定的なものしかありませんでした。これでは日本全体における伴侶動物由来耐性菌の実態を表すことはできませんでした。そこで農林水産省はAMR対策アクションプランの一環として、2018年度から病気の伴侶動物由来の薬剤耐性菌調査を開始しました。また、2019年度には健康な伴侶動物由来の薬剤耐性菌調査を実施しています。これらの調査で健康動物から分離された大腸菌は医療上重要なフルオロキノロン系や第三世代セファロスポリン系に対して低い耐性率を示すのに対し、病気の動物由来大腸菌では医療に匹敵する非常に高い耐性率を示しました。これは伴侶動物に対する抗菌薬の経験的な使用法に影響されたことは十分に考えられました。

少し背景説明が長くなりましたが、先に述べたような背景の下、農林水産省は「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用に関するワーキンググループ」を立ち上げ、その成果物として発行されたのが、今回紹介する「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き」になります(http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/attach/pdf/torikumi-25.pdf)。今回の手引きは獣医師が慎重使用を行うに当たっての、基本的な考えや、抗菌薬の選択方法、さらには院内感染対策にも言及しているなど、どちらかと言えば慎重使用に関する総論的な内容となっています。ややもすれば総花的で具体性がないとの指摘があるかもしれません。しかし、そこは農林水産省という抗菌薬の規制当局が作成したものであることから、イヌやネコに承認された抗菌薬の用法用量以外に触れることができないのは当然のことです。この手引きを受けて具体的な皮膚感染症や尿路感染症、呼吸器感染症に対する抗菌薬治療の実際を述べたハンドブックは、それぞれの専門団体が独自の方針により公表されることが望ましいと考えます。そうは言うものの今回の手引きで特に注目していただきたいのは、抗菌薬の選択の前段としてグラム染色の有用性を記述したことであると思います。迅速に抗菌薬選択の根拠になりますし、効果の検証も可能な方法であり、医療においても導入することの有用性が盛んに報告されています。事実、広域抗菌薬の削減にもつながったともいわれています。今回の手引きでは臨床材料によるグラム染色像から治療薬の例示もしており、導入に当たって非常に参考になると思います。獣医師であれば大学の細菌学実習で必ず経験していますし、たった20分間の作業で慎重使用の根拠を与えるものです。今回は冊子体の手引きとともに要点を記載した便利ツール(下敷き)(http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/attach/pdf/torikumi-27.pdf)も公表されています。是非とも各小動物病院でも慎重使用の手引きとともに、グラム染色を導入していただき、経験的な治療から根拠のある治療への転換を図っていただきたいと切に願う次第です。