家畜関連型MRSAがヒトから分離された!

掲載日:2020.03.23

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)はヒトの院内感染の起因菌として重要視されています。2016年に制定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」の成果指標として、2020年までにヒトから分離された黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下にすることになっていますが、残念ながら40%後半で推移し達成が極めて困難な状態です。ヒトから分離されるMRSAには、医療施設に由来するHA-MRSAと市中に拡散しているCA-MRSAが知られています。また、これとは別に2003年にオランダの養豚従業者の家族である4 歳の少女から従来とは異なるMRSAが分離され注目されました。このMRSAは家畜、特に豚から分離され、畜産従事者も高率に保菌することが知られており家畜関連型MRSA(LA-MRSA)と言われています。LA-MRSAについてはこのコラムでもすでに紹介していますのでご参照いただければ幸いです(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2336.html)。LA-MRSAの主な遺伝子型は、MLST(multi locus sequence typing)が ST398 であり、黄色ブドウ球菌の病原因子である Protein A 遺伝子(spa)の多変領域の塩基配列 を基にしたspa 型は t011あるいは t034 で、MRSA の分子疫学上の重要なマーカーである SCCmec 型は IVa 型あるいは V 型とされています。またST398以外にもST9や同一クローン集団と考えられるClonal complex (CC) 398やCC97やCC9などが報告されています。家畜からの分離率は非常に高く40%を越える豚の鼻腔から分離されたとの欧米からの報告も認められます。LA-MRSAのヒトの健康への影響は明らかではありませんが、オランダやドイツの病院で分離されたMRSAの多くがLA-MRSAであり、家畜から多く分離される地域の病院のMRSA分離率が高いといった報告もあります。

LA-MRSAに関するコラムを書いた当時は、ST97の豚からの分離報告はあったものの、欧州やアメリカで席巻するST398の日本の家畜から分離したとの公表論文はありませんでした。ところが、最近、動物検疫所で2016年7月から2017年2月に5カ国から輸入された32.8%の豚の鼻空スワブからMRSAが分離されST398であることが報告されました1)。動物検疫所で輸入豚からST398が分離されたことから、すでに日本国内への侵入は明らかであり野外の豚からの分離報告は時間の問題と思われました。事実、我われと青森県十和田食肉衛生検査所との共同研究で2017年5~10月にと畜場に搬入された豚450頭の3.3%からST398が分離されました(中山麻起子ら,平成30年度日本獣医公衆衛生学会(東北地区))。ST398の分離率は諸外国の報告に比べれば非常に低いものでしたが、限定された調査であり、全国的な分離状況に関する情報が待たれるところです。先に述べたアクションプランにより、JVARMの枠組み中で豚からのMRSA調査が実施されるようになったことから、近々に全国的な分離状況が明らかにされるものと思われます。

一方、日本におけるLA-MRSAのヒトからの分離についてはこれまで全く情報がない状態でした。これはLA-MRSAであると決定するには、SCCmec型、MLST型、spa型などの分子生物学的な試験が必要であり、多くの菌株に試験するには多額な予算や長時間を要することが問題点でした。ところが今般、肩の難治性関節炎からパントン・バレンタイン白血球毒(PVL)陽性のLA-MRSAが分離されたとの報告がなされました2)。患者は東京在住の74歳の男性で2018年から透析の治療を受けています。海外旅行も動物との接触もないとのことでした。分離株はSCCmecがV型でspa型がt034、MLST型がST1232(ST398に一箇所に変異がありCC398に相当)でありました。また薬剤感受性は、オキサシリン、ゲンタマイシン、クラリスロマイシン、クリンダマイシン、テトラサイクリンに耐性を示しました。国内で豚から分離されたST398と比較すると、国内豚分離株ではSCCmec型やspa型が同じであるものの、ゲンタマイシン感受性であり、PVL陰性、マクロライド耐性遺伝子(erm)やクリンダマイシン耐性遺伝子(lnu)が陰性であることから、国内の豚由来株とは異なっているように思われます。論文にも動物との接触がないことが明記されており、国内で飼育される豚以外の感染経路の存在が示唆されます。ST398のMRSAがどのような経路でヒトに感染し、難治性関節炎を起こしたのかは非常に興味あるところです。今後もOne Healthでの動向調査が必要であり、分離株の性状を詳細に比較することにより由来を明らかにすることが家畜からヒトへの伝播経路を遮断するという対策に結び付くものと思います。

 

1)Furuno M, et al., J Glob Antimicrob Resis 2018.
doi.org/10.1016/j.jgar.2018.03.012

2)Nakaminami H, et al., Emerging Infectious Disease 26(4):795-797, 2020.
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/26/4/19-0376_article