パンデミックとは何か?

掲載日:2020.03.16

3月11日に世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は、「新型コロナウイルス感染症は今やパンデミックであると言える」との見解を表明しました(https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19—11-march-2020)。パンデミックとは感染症の流行について表現する言葉で、2009年6月にもWHOはH1N1インフルエンザについて、世界的に感染が拡大しているとしてパンデミックと表明しました。そこで今回はパンデミックという言葉について説明したいと思います。

まず感染症の流行現象を表す言葉にはいくつかの種類があります(図参照)。比較的小さな集団で起こることを、アウトブレーク(outbreak,集団発生)と呼びます。ダスティン・ホフマン主演の映画のタイトルでもありましたので、ご記憶の方も多いと思われます。病院で感染症が流行した場合などに使われています。ついでエピデミック(epidemic,流行)という言葉で、特定の地域や集団で感染症が短期間に通常より高頻度に多発することです。川端裕人さんの小説のタイトルにもなったもので、ある人獣共通感染症の発生を描いた初めての疫学小説ともいわれる作品でした。ついで今回の話題であるパンデミック(pandemic,汎流行)という言葉は、同一感染症が短期間に世界的に発生することを言います。ただ、これらの言葉が使われるに当たっての具体的な要件は決まっていません。つまり、定義が曖昧なのです。今回のWHOの発表も症例数や発生国数、死亡者数などが表記されていますが、なぜ今がパンデミックなのかの具体的な要件が不明なのです。何か国で発生するとか、どの程度の重症度とか、具体的な死亡数とか、どの程度の経済的な影響とかなどを総体的に判断したようです。では前回のH1N1インフルエンザの発生時ではどのようにパンデミックを表明したのでしょうか?この時WHOはパンデミックの脅威の深刻さ及び事前に対策計画を準備する活動を実施する必要について知らせるための制度として、パンデミック警戒レベルとして6つのフェーズを事前に設定していました。このフェーズ6、つまり「効率よく持続したヒト-ヒト感染が確立」したとしてパンデミックを表明したのです。そして、それぞれの警告フェーズは、WHO、国際社会、各国政府、産業が取るべき一連の勧告された活動に対応しており、非常に多くの制約をうけることになったのです。H1N1インフルエンザの発生した時は、感染力は強かったものの毒性は弱かったことから、表明がかえって社会に混乱を招いたとしてこの制度を見直しました。その経験もあって、今回のような漠然とした対応になったものと思います。今回の表明は少し遅かった印象ですが、これまでの経験を踏まえたものであり、WHOが表明することにより恐怖心を煽ってもいけませんし、またどこでもある感染症と警戒心を怠って、普段の予防対策を疎かにしてしまうなどの弊害がでても困ることから、ぎりぎりの対応であったものと思います。

因みに上記以外の流行現象を表す言葉として、スポラディック(sporadic,散発発生)といって、少数の患者が時間および地理的に散発的に発生することを言います。また、特定地域に同一感染症が毎年のように発生することをエンデミック(endemic,地方流行)といい、風土病がこれにあたります。

以上のようにパンデミックを説明してきましたが、今回、WHOがパンデミックを表明したとしても、これまで政府が公表している「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」に準拠した対応を粛々として進めることが必要と思います。残念ながら今も終息の兆しが見えてこない状況ですが、感染症の流行は必ず制圧できますことから、一人ひとりが手洗い、咳エチケット等の一般感染対策の徹底をお願いし、できるだけ早期の「終息宣言」を待ちたいと思います。