新しい発想で発見された新規の抗生物質

掲載日:2020.03.09

抗生物質とは、「微生物が産生し、他の微生物の発育を阻害する物質」と定義されます。しかし、現在では微生物が産生したものを化学修飾したり、人工的に合成したものを含めています。つまり、出発点が微生物により産生された物質であれば抗生物質ということになります。微生物から見出された生理活性物質は20,000種以上ありますが、その半数以上は放線菌が産生するものであり、臨床で使用される抗生物質の80%は放線菌由来と報告されています。ここでいう放線菌とは、一般にグラム陽性細菌の内、細胞が菌糸を形成して細長く増殖する形態のものを示す慣用名です。現在の放線菌の分類は16S rRNA遺伝子の塩基配列によるものであり、系統的に類縁の桿菌や球菌も放線菌に含められることがあります。放線菌は広く自然界に生息すると考えられますが、多くの放線菌は土壌中に生息するため、新規の抗生物質を発見するために世界各地の土壌から抗生物質産生菌の探索が行われてきました。森林や田畑などや地域を変えたり、国を変えたりして探してきたのです。中には未開の地から危険を冒してまで土壌を収集してきたのです。しかし、これも限界に達してきたことから、pHや温度などの選択圧を加えることにより新しい抗生物質産生菌を見つけようと涙ぐましい努力を重ねたのでした。このような血のにじむような努力により収集した抗生物質産生菌ですが、最終的に医薬品として世に出るのは数えるほどもないと言われています。現在、残念ながら新規抗生物質の開発は遅々として進んでおらず、日本では抗菌薬開発数は2010年で5品目であり、アメリカでも2008年から2012年で2品目というもので耐性菌時代を迎えての状況としては非常に心もとないことになっています。

そのような中、今回は全く新しい発想により発見された二つの抗生物質について紹介したいと思います。まず、一つ目は通常の培養が困難である難培養菌から見出された抗生物質の話です。難培養菌は言葉の通り通常の培養法では検出の困難な細菌をいいます。そこで「iChip」という特殊な器具を用いて難培養菌を分離したのです1)。金属板に細菌が1個入る程度の小さな穴を沢山あけ、土壌を希釈して穴に細菌が入ったところで両面を膜で覆います(下図)。それを採材した土壌に静置して菌を増殖されるものです。土壌中に生息する細菌に対して土壌を培地として利用する発想は極めてユニークといえるものと思います。iChipを用いて培養した約10,000種の土壌微生物の抽出物をスクリーニングし、アメリカのメイン州で採取した土壌から分離したEleftheria terraeから新規抗生物質であるTeixobactinを発見したのです2)。TeixobactinはMRSAを始めとするグラム陽性菌に抗菌活性を示し、ペプチドグリカンの合成を阻害することが明らかにされました。また、標的部位が二つあることから耐性菌が出現しにくい抗生物質として期待されています。もう一つの抗生物質は、土壌中の線虫の腸内に生息する共生細菌であるPhotorhabdus属菌が産生した新規抗生物質をDarobactinの話しです3)。これはグラム陰性菌に抗菌力を示し、マウスの感染実験で大腸菌や肺炎桿菌の感染症を治療できました。Darobactinは細菌の外膜タンパクであるBamAの働きを阻害することで外膜の形成を阻害し、細菌を死滅させるようです。

以上のように、難培養細菌であるとか土壌中の線虫の持つ腸内フローラに着目した従来とは全く異なる新たな発想により分離した細菌により新規抗生物質が発見されたことを見ると、今後もアイデイアを絞ることにより、既存の材料でも新規抗菌薬の開発を可能にすることが期待されます。固定概念に縛られることなく新たな発想を新規抗生物質の探索に応用した上記の業績は素晴らしいの一言に尽きます。資源や資金や人材が限られるわが国がアイデイアを駆使して再び耐性菌時代の救世主になることを期待して止みません。

 

1)Nichols D et al., Use of iChip for high-throughput In Situ cultivation of “Uncultival” microbial species, Applied Environment Microbiology 76(8):2445-2450, 2010.
2)Ling LL et al., A new antibiotics kills pathogens without detectable resistance, Nature 517:455-459, 2015.
3)Imai Y et al., New antibiotics selectively kills Gram-negative pathogens, Nature 20 November 2019
Nature.com/articles/s41586-019-1791-1

http://theconversation.com/new-class-of-antibiotics-discovered-and-why-there-may-be-more-to-come-36085