世界に先駆けた健康なイヌとネコに由来する薬剤耐性菌の実態調査

掲載日:2020.02.25

伴侶動物(農林水産省では愛玩動物と呼んでいます)であるイヌやネコに由来する薬剤耐性菌の実態調査については、2016年に制定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づき、従来から食用動物を対象として実施されていた薬剤耐性モニタリング体制(通称、JVARM)に2017年度から追加されて実施されています。この調査は規模といい、内容といい、世界に先駆ける伴侶動物における薬剤耐性菌のモニタリング調査であり、アクションプランの特筆すべき成果となっています。これまでの調査の供試菌株は、市中の小動物病院からの菌種同定や薬剤感受性などの微生物検査依頼により臨床検査会社に持ち込まれたものであり、その多くは感染症に罹患した動物と思われ、バイアスの掛かった調査でした。これは供試菌株を効率よく全国から収集するためには必要な方法であると理解しますが、ベースラインといった薬剤耐性菌の実態を知る上では、健康な動物を対象とした調査も必要でした。今般、農林水産省は2018年に実施した「健康愛玩(伴侶)動物(犬及び猫)由来細菌の薬剤耐性モニタリング調査の結果」を公表しましたので概要を紹介します(https://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/pdf/H30kenkocyousa20200212.pdf)。

検体は全国215か所の小動物病院に健康診断やワクチン接種に訪れた外見的に健康なイヌ178頭とネコ177頭の直腸スワブとしました。当然のことながら検体の採取については飼い主へのインフォームドコンセントを実施し、同意を得たものとなります。対象菌種としては大腸菌(イヌ:152株,ネコ:159株)と腸球菌(イヌ:146株,ネコ:90株)でした。

分離された大腸菌の薬剤感受性成績をみると、イヌでは耐性率が高い順から アンピシリン(ABPC)(33.8%)、ナリジクス酸(NA)(27.8%)であり、その他の薬剤は20% 未満でした(図1)。フルオロキノロン系のシプロフロキサシン(CPFX)に対しては18.5%、第3世代セファロスポリンのセフォタキシム(CTX)に対しては 13.2%であり、カルバペネム系のメロペネム(MEPM)及びポリペプチド系のコリスチン(CL)に対しては耐性を示す株はありませんでした。一方、ネコでは耐性率が高い順から ABPC(28.5%)、NA(24.7%)であり、その他の薬剤は 20% 未満でした(図2)。供試薬剤に対する耐性傾向は犬由来株と同様であり、CPFXに対しては12.0%、CTX に対しては10.8%、MEPM及びCLに対しては耐性を示す株はありませんでした。健康動物由来大腸菌の耐性率を2018年度の疾病由来大腸菌と比較したところ、イヌ(図1)とネコ(図2)とも疾病由来大腸菌で供試した薬剤の殆どすべてで有意に高い結果が得られました。残念ながら抗菌薬の使用歴は不明であったのですが、治療ために使用された抗菌薬の影響と考えることができそうです。中でも医療上重要な抗菌薬に絞って見てみると、イヌやネコ由来大腸菌共にCTXとCPFXの耐性率はヒト由来大腸菌に匹敵するか超えるほど高いものでした(図3)。なお、先にも述べましたがMEPMやCLの耐性菌は認められませんでした。加えて、健康な伴侶動物と食用動物由来大腸菌で比較してみると、CTXやCPFXの耐性率はほぼ同程度という結果でした。

一方、分離された腸球菌の薬剤感受性成績をみると、イヌ由来株では耐性率が高い順からTC(55.9%)、エリスロマイシン(EM)(32.4%)であり、その他の薬剤は20%未満でした。CPFXに対する耐性率は13.8%であり、また人医療で問題となるバンコマイシン(VCM)の耐性株はありませんでした。耐性株が認められた薬剤の耐性率は、同じ年度に収集された疾病由来株と比較するとABPC及びCPFXで低い耐性率を示しました。ネコ由来株では耐性率が高い順からTC (48.9%)、EM (34.4%)であり、その他の薬剤は20%未満でした。供試薬剤に対する耐性傾向はイヌ由来株と同様でした。CPFXに対する耐性率は14.4%であり、VCM に対する耐性を示す株はありませんでした。耐性株が存在した薬剤の耐性率は、同じ年度に収集された疾病由来株と比較するとクロラムフェニコール(CP)以外は全て低い耐性率を示しました。

以上の成績は、ヒトと接触機会の多い健康なイヌやネコに由来する細菌の耐性状況はおおむね良好に維持されており食用動物に匹敵するものでした。一方、感染症と思われる疾病由来株の耐性率は極めて高く、特に医療上重要な抗菌薬の慎重使用の徹底が必要に思われました。動物から耐性菌伝播によるヒトに対する健康被害を防止する上においても飼育する動物の健康を維持し、なるべく抗菌薬を使わないことに留意する必要があります。さらに伴侶動物での薬剤耐性率を低く保つことは、現在ある抗菌薬の効果を維持し、引き続き必要な場合に治療に使用することができるようにするためにも重要であるといえます。このような伴侶動物を対象とした薬剤耐性モニタリング体制は他国に類を見ないものであり、継続することで日本における伴侶動物の耐性状況を明らかにし、他国を先導するような耐性菌対策に貢献することが望まれます。