ライム病(Lyme disease)について

掲載日:2020.01.20

カナダの人気ポップ・ミュージシャンで俳優でもあるジャステイン・ビーバーが、ライム病であることを告白し注目を集めています。日本ではあまり聞きなれない病名で戸惑った方も多いと思われます。ライム病1)はダニ媒介性の人獣共通感染症であり、北海道を中心に日本でも発生報告があることから、今回はライム病についてご紹介したいと思います。

ライム病は野ネズミや小鳥などを保菌動物として、野生のマダニを介してヒトに感染する人獣共通感染症です(下図参照)。1976年にアメリカのコネチカット州ライムで最初に確認され名前の由来となりました。アメリカでは毎年30,000人の患者が発生し、社会的にも重大な問題となっています2)。さらに治療終了後に約10~20%の方が6か月以上にわたり痛み、疲労、思考困難の症状を示すライム病治療後症候群(PTLDS; Post-treatment Lyme disease syndrome)として知られる原因不明のライム関連疾患に悩まされているようです。日本では1986年に初の患者が報告されて以来、主に本州中部以北(殆どが北海道)で患者が報告されています(下図参照)。北海道以外での届出例の多くは、北海道や海外での感染事例とされています。したがって、北海道に在住する方はダニ媒介脳炎とともに承知しておくべきダニ媒介性の感染症ということになります。感染症法の全数報告対象としての報告数は、1999年から2018年までの20年間で231例とされています。日本でライム病を媒介するマダニはシュルツェ・マダニ(Ixodes persulcatus)とされており、欧米の媒介マダニとは異なることが知られています。一般にダニ媒介性感染症の発生は、媒介するダニの生態(生息地域、活動時期など)と密接に関連することが知られています。シュルツェ・マダニの生息地域に特徴があり、そのことがライム病の発生に関連があると思われます。因みに同じくダニ媒介性感染症として注目されている重症熱性血小板減少症(SFTS)は、フタトゲチマダニにより媒介され、西日本で主に発生し北海道での報告はありません(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2512.html)。

ライム病を起こす病原体は、スピロヘータという螺旋状の形態をした細菌の仲間です。この内、北米では主にボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、欧州ではB. burgdorferi に加えて、ボレリア・ガリニ(B. garinii)、ボレリア・アフゼリ(B. afzelii)、ボレリア・ババリエンシス(B. bavariensis)が主な病原体となっています。一方、日本ではB. bavariensisB. gariniiが主な病原体となっており、欧米と異なることが知られています。このことが欧米との発生数の差に影響しているのかも知れません。

症状は感染初期(stage I)にマダニ刺咬部を中心とする限局性の特徴的な遊走性紅斑(ダニ刺咬部から徐々に環状に広がっていく紅斑)を呈することが多いとされています。随伴症状として、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともあるようです。その後、体内循環を介して病原体が全身性に拡散する播種期(stage II)に移行します。これにともない、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られるようです。感染から数カ月ないし数年を経て感染後期(stage III)に移行します。播種期の症状に加えて、重度の皮膚症状、関節炎などを示すといわれています。

ライム病には抗菌薬による治療が有効とされています。マダニ刺咬後の遊走性紅斑にはドキシサイクリン、髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソンが第一選択薬として用いられます。多くのライム病患者は2~4週間の抗菌薬治療によって回復しますが、最終治療後にPTLDSを発症することの問題が指摘されています。PTLDSの原因は不明なのですが、一部の専門家は自己免疫反応や他の病原体の関与を指摘しています。また、ある専門家は抗菌薬の存在下でも生残する休眠状態の病原体(persister)の関与3)を指摘しています。

ライム病ワクチンは実用化されていないので、予防には野山でダニの刺咬を受けないようにすることです。むやみに藪に入らないことや、衣服の裾は靴下に入れ虫よけを利用してダニを近づけないことです。もしダニに刺咬を受けたら口器を残さずに抜去することが重要となりますが、刺咬されると口器は抜き難い構造のため皮膚内に残存することが多く、ライム病以外の感染症も考えられることから皮膚科を受診することを勧めます。

以上、ライム病に関しての概要を紹介しました。発生数からみると日本では稀な感染症と思われがちですが、野ネズミやマダニにおける病原体保有率は欧米なみともいわれており、潜在的なライム病の蔓延が指摘されています。また、日本においてもPTLDSの報告4)もなされていることから注目すべき人獣共通感染症であると思われます。

1)川端實樹:ライム病とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/524-lyme.html

2)Center for Disease Control Prevention: Lyme Disease
https://www.cdc.gov/lyme/index.html

3)Bijaya Sharma et al.: Borrelia burgdorferi, the Causative Agent of Lyme Disease, Forms Drug-Torerant Persister Cells, Antimicr Agent Chemothr 59:4616-4624, 2015.
https://aac.asm.org/content/aac/59/8/4616.full.pdf

4)岩田健太郎,島田智恵,川端寛樹:感染症内科外来で診断に1年以上を要したライム病の1例,感染症学雑誌 87:44-48, 2013.

 

感染症法によるライム病届出数

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/524-lyme.html