抗菌薬の使用制限が耐性菌を減らす!-ある小動物病院の挑戦-

掲載日:2019.12.23

イヌやネコなどの伴侶動物から、医療上重要な薬剤耐性菌が牛や豚や鶏以上に高頻度に分離されることを、すでにこのコラムでも紹介しました(https://cvdd.rakuno.ac.jp/archives/2899.html)。特に基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌を多く含むと考えられる第3世代セファロスポリン系薬であるセフォタキシム耐性大腸菌の分離率が、イヌ由来株では約25%でネコ由来株で約30%であったのです。また、フルオロキノロン系薬では、さらに高い耐性菌分離率でした。このような耐性菌の選択圧として最も考えられるのは、小動物病院における抗菌薬の使用にあると考えられます。このような状況を憂慮し、自らの小動物病院における抗菌薬を使用制限した結果、耐性菌の減少を確認した研究報告を紹介したいと思います。

実践したのは茨城県古河市で開業されている栗田吾郎獣医師になります。栗田先生は2014年に第3世代セファロスポリン系薬の使用量が動物当たり13.5mg(6.8%)でフルオロキノロン系薬では1.6mg(0.8%)であったものを、2016年から抗菌薬の使用制限を導入し、2018年には前者が0.2mg(0.1%)、後者が0.1mg(0.0%)に削減しました(図1)。この時、イヌの膿皮症からしばしば分離されるStaphylococcus intermedius groupのメチシリン耐性株の感受性に対する割合は2015年の41.5%から2018年の9.3%に減じ、ESBL産生大腸菌株の非産生株に対する割合は2015年の29.5%から2018年の9.5%に減じることに成功しました(図2)。この時、SIGのβラクタム系薬とβラクタマーゼ阻害薬の合剤、エリスロマイシン、キノロン系薬の感受性株の分離頻度が高まりました。また、ESBL産生大腸菌では、ペニシリン系薬、ゲンタマイシン、ミノサイクリン、フルオロキノロン系薬の感受性株の分離頻度を高めました。したがって、広域スペクトルの第二次選択薬の使用を制限することにより、第二次選択薬の感受性を高めただけでなく、使用可能な第一次選択薬を増やしたことになりました。

医学領域では抗菌薬の適正使用でde-escalationと呼ぶ方法が良く推奨されています。この概念は2005年のATS/IDSA(米国胸部疾患学会/米国感染症学会)院内肺炎ガイドラインから提案されたものです。感染症の治療で使用する抗菌薬の選択方法として、経験的治療(empiric therapy)と標的治療(definitive therapy)に分類されます。前者は原因菌が判明するまでの間に、比較的広域スペクトルの抗菌薬を使うことをいい、後者は原因菌が特定された後に最適な抗菌薬を使用することをいいます。培養結果が判明した時点で広域抗菌薬をより狭域スペクトルの抗菌薬に切り替えること、つまり経験的治療から標的治療に切り替えることをde-escalationと呼ぶのです。先に述べた事例は原因菌の特定に関連したかは分かりませんが、まさにde-escalationと呼ぶに相応しい事例であると考えられます。今後、他の小動物病院で実践することにより、この有効性を検証することが重要だと考えます。

耐性菌が蔓延する要因として、抗菌薬の誤用と過剰使用にあるといわれています。獣医領域においても感染症の治療に抗菌薬は必要不可欠な薬剤であり、必要な時には躊躇することなく使用すべきです。しかし、不必要な抗菌薬の使用は避けなければならないことは当然のことです。抗菌薬の適正使用を推進することにより、今ある抗菌薬の感受性を維持する今回の報告は極めて意義があるものと考えています。さらに今回のように小動物病院の臨床現場から、それも医学系英文誌に公表したことは素晴らしいことであり、栗田先生の情熱と努力に敬意を表したいと思います。

 

Kurita G, Tsuyuki Y, Murata Y, Takahashi T et al., Reduced rates of antimicrobial resistance in Staphylococcus intermedius  group and Escherichia coli isolated from diseased companion animals in an animal hospital after restriction of antimicrobial use. J Infect Chemother 25:531-536, 2019.