ブドウによるイヌの食中毒を知っていますか?

掲載日:2019.11.25

実りの秋を迎えスーパーなどの店頭には旬の果物が所狭しと並んでおり、それを食べて季節を感じている方も多いと思います。豊穣の秋を迎えて我われが注意することに食中毒があります。特にキノコやジャガイモを食ベることによる食中毒の発生を新聞紙上で毎年みることがあると思います。野菜や果物は時に植物性自然毒を含むため、食べるに当たって細心の注意を払う必要があるのです。食中毒とはこれまで「食品中の自然毒や化学物質、細菌および細菌毒素を摂取することによる下痢などの急性疾患」を指しました。しかし、現在ではさらに広く消化器性伝染病の一部の細菌(コレラ菌、赤痢菌、チフス・パラチフス菌)やウイルスも食品を介して感染症を起こした場合は食中毒とされ、症状も消化器症状のみならず神経症状や風邪様症状をも含めています。したがって食中毒の定義も曖昧になっているのです。では伴侶動物であるイヌではどうでしょうか?獣医学では食中毒という言葉を使わないのですが、イヌでも食品を食べることにより発症するようなヒトの植物性自然毒による食中毒に類した疾患も知られています。そこで今回は今が旬のブドウによるイヌの食中毒の話しです。

イヌが絶対に食べていけない食品には、チョコレート、ネギ類、キシリトールとブドウが知られています。このうちチョコレートは含まれるテオブロミンが中毒の原因とされています。ネギにはイヌの赤血球を破壊するアリルプロピルジスルホイドが含まれ、エキスにも含まれているので注意が必要です。また、キシリトールはガムやお菓子に含まれている甘味料で、急激にイヌの血糖値を下げて、最悪の場合は死に至るとも言われています。では今回の本題であるブドウについて以下に詳しく解説したいと思います。

イヌのブドウによる食中毒は、2001年に米国のGwalney-Brantら1)がブドウやレーズンを大量に食べた後に急性腎不全を発症した症例を報告したことが最初になります。その後も報告が続き、ブドウやレーズンのイヌに対する危険性は世界的に認知されることになりました。日本でも2010年に3歳のマルチーズが種無しブドウ70gを食べた5時間後から嘔吐と乏尿(尿の排泄量が低下すること)を訴え4日後に死亡した症例が報告されています2)。また発症後の適切な治療により回復した症例も報告されています3)。以下にこれまでの症例から得られた情報を整理してみましょう。まず、原因物質ですが今のところ不明であるようです。原因食は生のブドウだけでなくレーズンやブドウジュースなどの加工品になります。症状としては、摂食して数時間後に下痢や嘔吐や乏尿を呈し、重症の場合は急性腎不全になることもあります。腎不全で腎臓の機能が低下すると、体内の毒素や老廃物が体内に留まり尿毒症などを併発し、最悪の場合は死亡するというものです。これまで世界各国で研究報告されたイヌのブドウ摂食による腎不全についてまとめられたものを表に示しました4)。これによると犬種としてレトリバーが多くオスが多いようです。これは性別に偏るというより、好奇心が旺盛であることが影響したものと考えます。摂取量も最低が2.8g/kgですので少量でも発症する可能性があるということで、発症すると多くは死亡するか安楽死となっています。

このようにイヌにとって厄介な食べ物であるブドウですが、人間にとっては美味しい秋の味覚であり、テーブルの上に放置することも多々あるように思います。そこで注意していても室内で飼育するイヌが誤食することも想定されます。万が一誤食して発症した場合、乏尿になったイヌの生存率は24%で無尿になれば12%ともいわれています。発症すれば直ちに動物病院を受診し治療を受ける必要がありますが、腎不全で有効な人工透析装置を保有する動物病院は極めてまれで大学病院でも対応が難しいと考えます。そのことを思えばイヌを飼育する皆さんはブドウの誤食を回避する方法を常に考えるほうが良いように思います。

1)Gwaltney-Brant S, Holding JK, Donaldson CW, Eubig PA, Khan SA : Renal failure associated with ingestion of grapes or raisins in dogs, J Am Vet Med Assoc, 218, 1555h1556 (2001)

2)伊東輝夫,西敦子,池田文子,串間栄子,串間清隆,内田和幸,椎宏樹:ブドウ摂取後に急性腎不全を発症して死亡した犬の1例, 日本獣医師会誌 63:875-877,2010.

3)藤森康至:ぶどう中毒を発症した犬の考察, 岩手県獣医師会報 44:63-65,2018.

4)Cortinovis C and Caloni: Household Food Items Tovic to Dogs and Cats. Frontiers in Veterinary Science, doi:10.3389/fvets.2016.00026