愛煙家に朗報?:ニコチンを分解する細菌の発見

掲載日:2019.10.28

タバコの健康被害が言われるようになって久しく、世界的に禁煙対策が強化されています。日本は禁煙対策後進国であり、タバコのパッケージを見ても諸外国に比べて明らかにトーンダウンしています。2018年の成人男性の平均喫煙率は27.8%で、減少しているものの、諸外国に比べると未だ高い状況にあり、約1400万人が喫煙していると推定されています。特に40歳代の喫煙率は最も高く35.5%でした。これに対し、成人女性の平均喫煙率は8.7%であり、ほぼ横ばいの状況にあります。女性も40歳代の喫煙率が高く、13.6%でした。タバコは喫煙者そのものの健康被害とともに、喫煙者が吐き出した煙や保持するタバコの先から立ち上る煙などが大気を経由して他人に吸入されることの健康被害が知られています。最近ではタバコを消した後の服などの残留物を吸入することの三次喫煙も問題視されています。2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、各国と足並みを揃えた状況が求められ禁煙活動が加速することも考えられますが、まだまだ国民運動というレベルには達していないようです。

タバコの煙には約4000種類の化学物質が含まれ、その内の200種類以上は人体に有害だといわれています。特に三大有害成分として上げられているのが、ニコチン、タール、一酸化炭素です。ニコチンは薬物依存性の高い物質であり、喫煙すると約8秒で脳を刺激し、血中濃度は1~3分で高くなります。また、血管を収縮させる作用があるため、脳や皮膚の血流を障害し、血圧・心拍数も上昇するため、血管の負担が強く、心筋梗塞・狭心症・脳卒中を起こす危険が高くなります。喫煙者もこのような有害作用は重々承知していますが、なかなかやめられないのも事実です。

今回、愛煙家に朗報と思われるような文献が公表されたので紹介したいと思います。これはタバコ農園の地中から、ニコチンを分解する酵素を産生する細菌が発見されたのです。分離されたのは、Pseudomonas putidaという細菌で、細菌の増殖にとって重要な炭素源と窒素原の供給源としてニコチンを用いているのです。つまりニコチンを利用して発育できる細菌なのです。この細菌は「NicA2」という酵素を産生し、ニコチンは有害物質を作らずに分解されます。また、この酵素は漿液の中で安定的に存在し、ニコチンの半減期を2~3時間から9~15分に減らすことから、タバコを吸引してからニコチンが脳に到達することを妨げることができる可能性があるのです。したがって、タバコの有害作用を無くすことができると愛煙家が喜びそうな話となるわけです。

ところが、先に述べたようにタバコの煙の中には多くの有害物質が含まれているので、ニコチンだけが分解されてもタバコは無害とは到底言えないのです。また科学的な事実があってもマナーとは無関係ですので、禁煙活動に影響を与えるとは到底思えません。タバコは吸引する本人だけでなく、家族を含め周りの人たちの健康被害を与える嗜好品であることは確かですので、2020年を契機に禁煙をしたらいかがでしょうか。実はこのコラムを書いている私自身も愛煙家の一人でしたが、娘の誕生を契機に禁煙をしましたので、止めようという意思があれば可能だと思う次第です。

 

Xue S, Schlosburg and Janda KD: A new strategy for smoking cessation: Characterization of a bacterial enzyme for the degradation of nicotine, J.Am.Chem.Soc., 137(32):10136-10139, 2015.