プラセボ(偽薬)効果とは?

掲載日:2019.09.23

まだ文明があまり入っていない原住民達に歯磨き粉を薬として与えて病気を治したと言う逸話を聞いたことがあるのではないでしょうか?このように本来,薬としての効果はない錠剤などを「特別の効果をもつ薬である」と伝えて被験者に与えると,暗示的な作用が働いて,説明された通りの効果が得られることがあります。このような効果をプラセボ効果と呼び,その偽薬を“プラセボ(Placebo)”と呼んでいます。したがって、人体用の新薬の臨床試験では、プラセボ群に対して効果を評価することにより、科学的に薬の効果を証明することが行われているのです。そこで今回はプラセボ効果について解説したいと思います。

プラセボはラテン語で「私を喜ばせる」に由来し、日本語で偽薬といわれるものです。薬としての効き目のない乳糖やでんぷんなどを錠剤やカプセル剤などにし、薬のようにみせたものです。プラセボ効果は1955年にHenry K. Beecherにより報告されて、広く知られるようになりました1)。具体的には15の種々の疾患に対してプラセボを用いた試験を解析し、1082例中35%の患者にプラセボのみで効果が認められたのです。プラセボは薬の臨床試験に使われるだけでなく、特に効果が期待される痛みや下痢、不眠といった症状に対して、治療法のない患者や副作用のある患者に対して安息をもたらすために、本人や家族の同意の元に処方されることもあるようです。一方でプラセボに一定の効果があるかについて、疑問視する意見もあるようです。2001年にHróbjartssonらは、痛みの症状はプラセボで若干改善されましたが、それ以外では自覚症状や他覚症状を改善する証拠はなかったと述べています2)

薬の臨床試験でプラセボの重要性を先に述べましたが、プラセボによって望まない副作用(有害作用)が現れることがあります。このことをノセボ(nocebo)効果と呼んでいます。副作用があると信じこむことによって、その副作用が強く出現するのではないかと言われています。また、投薬を継続している被験者が「この薬は効かない」と思い込むことによって薬の効果がなくなる場合もノセボ効果と呼びます。また、プラセボ効果は薬の臨床試験で薬効の正確な評価を行う上での妨げにもなります。用いる薬に依存しない効果が上乗せされるため、正確に薬効を評価できないのです。そこで新薬の臨床試験で用いられるのが二重盲検法になります。これは評価する薬の情報を医師(観察者)からも患者からも不明にして行うものでプラセボ効果の影響を防ぐことができます。実際には、誰が有効成分を含む薬を服用しているか誰がプラセボを服用しているかを、試験を受ける患者さんにも、担当している医師、薬剤師、看護師などにもわからないようにして臨床試験が実施されるのです。なお、新薬の臨床試験では、法的に求められていないものの一定数の二重盲検法が導入されているようです。

以上のように薬の効果というものに、使用される人の心理的な影響が色濃く反映されることが多いことを示した話だと思われます。疑い深い性格の人は無理ですが、服薬にあたって、「この薬はすばらしい効果がある」と信じることで、薬効以上の効果が期待できるのです。では動物を治療対象とした新薬の臨床試験ではどうでしょうか?確かにイヌやウマは賢い動物と思えることは多々ありますが、薬の性質までは理解できません。では動物用の新薬の評価にプラセボ効果を無視して良いのでしょうか?薬の評価では動物が症状を訴えることはできませんので、飼い主や担当する獣医師が被験動物に代わって薬効を判断すると考えると、やはり薬の種類によっては二重盲検法により科学的に評価することが良いと考えます。薬を評価する人の心理的な影響をも排除し科学的に評価することが正しいと思います。

 

1)Beecher HK (1955). “The powerful placebo”. Journal of the American Medical Association 159 (17): 1602–1606. doi:10.1001/jama.1955.02960340022006. PMID 13271123.
2)Hróbjartsson A, Gøtzsche PC; Gøtzsche (2001). “Is the placebo powerless? An analysis of clinical trials comparing placebo with no treatment”. New England Journal of Medicine 344 (21): 1594–1602. doi:10.1056/NEJM200105243442106. PMID 11372012.