伴侶動物病院に販売された人用抗菌薬量の調査

掲載日:2019.09.09

国レベルで見れば、薬剤耐性菌の出現率と抗菌薬の使用量は相関することが知られています。したがって、薬剤耐性(AMR)対策を策定する第一歩が抗菌薬の使用量を知ることになります。しかし、伴侶動物(イヌとネコ)に使用される抗菌薬には、動物用として承認されたものの他、人体用が適応外使用される実態にあり、これまでどのくらいの抗菌薬が使われているのか、日本のみならず世界各国でも明らかでありませんでした。2016年に制定されたわが国のAMR対策アクション・プランでも、人や動物の抗菌薬の使用量を把握することの重要性が指摘されています。このような背景の下、農林水産省は全国動物薬品器材協会及び日本医薬品卸売業連合会の会員のうち、2016年1月~12月に伴侶動物病院の開設者に人用抗菌薬を販売した全56社から情報の提供を受け、卸段階における伴侶動物病院での抗菌薬の販売量調査を実施し、2019年8月19日付けでその結果を公表しています。今回は調査結果の概要を紹介したいと思います。

2016年に伴侶動物病院に販売された人体用抗菌薬の総量は6,480.7kgでした。2016年に販売された動物用抗菌薬が7,793.1kgですので、総量は14,273.7kgになります(表1)。したがって、伴侶動物に使用される抗菌薬の45.4%が人体用抗菌薬を占めていることになります。これまでは殆どが人体用抗菌薬を伴侶動物に適応外使用していると思われていたのが、実は動物用抗菌薬が思った以上に多く使われていたのでした(54.1%)。これもデータがなかったために誤解を生んだものと思われ、改めて抗菌薬の使用量調査の重要性を示す結果になりました。

伴侶動物に販売された人用抗菌薬の系統別では第1・第2世代セファロスポリン系薬が全体の約半数(3,115.0kg)を占め、ペニシリン系薬が次いで多く(1932.0kg)、三番目が医療上も重要視されるフルオロキノロン系薬でした(1,004.3kg)。医療上重要視される第3世代セファロスポリン系薬は全体の2.4%(337.2kg)で、カルバペネム系薬は全体の0.05%(6.6kg)と限定されていました。今回は具体的な成分名は公表されていないものの、最も販売量の多い第1・第2世代セファロスポリン系薬の多くはセファレキシンと思われ、48.1%が動物での承認薬であることが注目されます。つまり、対象動物に対する有効性や安全性のデータが整備されており、用法用量もエビデンスに基づき設定されていることなどを勘案し、購入価格は高いものの臨床獣医師は動物用医薬品を思った以上に使用している実態が明らかにされました。したがって、人体薬がある製剤では販売量が望めないと開発を躊躇していたと思われますが、今回の調査から伴侶動物に対する動物用抗菌薬を開発する意義は十分にあると判断されます。

今回、卸段階といえ初めての伴侶動物病院における人体用抗菌薬の使用実態が明らかにされました。ただ、今回のデータはあくまで先に述べた組織の会員会社からの調査であり、組織外の会社からも伴侶動物病院に人体用抗菌薬が流れている実態もあることから、今後はさらに精度の高い調査を期待したいものです。また、このような調査は単発では意味がないことから、継続的な調査とし、伴侶動物由来細菌の薬剤感受性調査と共に薬剤耐性モニタリング制度(JVARM)の枠内に取り込むことが望まれます。

 

農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課 動物医薬品検査所:平成28年度に飼育動物診療施設に販売された人用抗菌剤量調査結果

http://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/pdf/20190819cyousa_2.pdf#search