プラごみ対策の切り札:プラスチックを食べる細菌の発見

掲載日:2019.07.29

G20大坂サミットは6月29日に首脳宣言を採択して閉幕しました。安倍首相は議長として、データ流通に関して議論する「大坂トラック」の創設で各国の合意を取り付けたほか、私たちの身近な問題である海洋プラスチックごみを2050年にゼロまで削減する新たな目標を首脳宣言に盛り込みました。今回は世界的に深刻な問題となっている海洋プラスチック問題を紹介するとともに、この問題解決の切り札と期待される細菌の話しです。

私たちの周りにはスーパーのレジ袋や食品トレー、ストロー、コーヒーカップなど多くのプラスチック製品が使われています。このように家庭から分別された廃プラスチックは可燃ごみとして焼却されるほか、不燃ごみとして粉砕・選別されたり、資源として回収されたりします。世界で1950年以降に生産されたプラスチックは83億トンを超え、そのうち63億トンがゴミとして廃棄されているのです。これらのリサイクル率はたった9%に過ぎないとされています。回収されたプラスチックごみの79%が埋め立て、あるいは海洋に投棄されています。しかし、プラスチックごみが自然分解されるのに、レジ袋で20年、発砲スチロール製カップで50年と言われており、環境中のプラスチックごみが増える一方です。環境へ放出されたプラスチックは、紫外線や外的な力で小さな細辺状(5mm以下)になりマイクロプラスチックになります。これを海の生物が誤飲・誤食することの影響が問題視されています。また、化学物質の吸着による影響も心配されています。影響としては海洋生物に対する毒性のほか、人が食べることによる弊害も含まれています。

では日本の状況はどうでしょうか?日本の廃プラスチック発生量は1年で940万トンといわれており、2013年度時点では、リサイクル率が約25%、熱回収率が約57%、未利用・焼却埋め立てが約18%となっています。中国の廃プラスチック輸入禁止措置以前に日本が中国に輸出していた廃プラスチックは1年で約150万トンとされています。中国の輸入禁止措置を受けて、タイなどの東南アジア諸国へと輸入先が変更されていますが、2019年5月10日に採択(2021年1月発効)されたバーゼル条約締結国会議で、リサイクル資源として扱われる廃プラスチックの輸出入制限が強化されることになっており、将来的に輸出できない事態になると思われます。また、それらの国々に日本並みの廃プラスチック処理施設があるとは思われず、日本の負の遺産をお金の力で他国に押し付けることによる地球規模での環境破壊に積極的に加担することにも問題があると思われます。今後、国外に輸出していた廃プラスチックの処理について、国内で対応する方策の開発が急務と思われます。

最近、フアストフード店でのプラスチックストローを紙製に変更するとか、スーパーのレジ袋を有料化するなど対策が検討されていますが、この程度での対策では不十分であり抜本的な対策が求められています。このような状況の中、日本の研究者がプラスチックを分解する細菌を発見しプラごみ対策の切り札になるかもしれないと報道されました(https://www.asahi.com/articles/ASM6F4PQ7M6FPLBJ006.html)。PET(ポリエチレンテレフタレート)はペットボトルや衣服などの素材として世界中で活用されています。このPETを分解し、生育する新種の細菌 Ideonella sakaiensis が大阪府堺市で採取した環境サンプルから分離されたのです(図参考)。本菌はPETを分解するのみならず、PETを栄養源として増殖できることから、低エネルギー型・環境調和型の「PETバイオリサイクル」が実現できると研究者は述べています。次に本菌のPET分解機構について調べたところ、ゲノム解析からPETを分解する酵素と類似する遺伝子を発見しました。この酵素はこれまで報告されたPET加水分解酵素よりも、PETを好んで分解し、PETが頑丈な構造を取る常温で高い分解活性を示しPETaseと命名されました。PETaseはPETを加水分解して、MHETを主に生成し、それ以上反応が進みませんでした。そこでMHET分解酵素を調べたところ、MHETを迅速に加水分解するMHETaseを同じ細菌から発見しました。以上の結果から、環境中より分離した細菌が、2種の酵素PETaseとMHETaseにより、PETを効率よく、単量体であるテレフタル酸とエチレングリコールに分解することが明らかとなりました。生成されたテレフタル酸とエチレングリコールは、本菌により更に分解され、最終的に炭酸ガスと水になります。本菌そのものの利用やPETaseおよびWHETaseの実用化がなされれば、現在の廃プラスチック問題に光明を与える技術となることは間違いありません。

いずれにしても環境分野では日本が世界をリードする特殊技術を持っていることを如実に示すことになり、同じ日本人として誇らしく思います。資源がなく経済的にも後塵を拝する日本ですが、環境分野でさらに飛躍して欲しいと願うのは私だけではないように思います。それにしても細菌の持つ潜在的な能力にはただただ驚くばかりです。先般も福島原発事故で大量に廃棄しなければならない放射性物質をエネルギー源として利用し分解する細菌がいることが報告されています(Bassil N M, et al., The ISME Journal 9:310-320, 2015)。細菌は微小な生き物であり、か弱い存在のように感じられるものの、実は多彩な機能を持ち我々人間にとって極めて頼りになる存在でもあるようです。今後も細菌の持つ多機能性について皆さまに紹介していきたいと思います。

 

 

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