高校生に対する抗菌薬の慎重使用に関する課外授業

掲載日:2019.07.22

医療における薬剤耐性菌の蔓延は世界的に深刻な事態に陥っています。しかし、感染症の治療に使用する抗菌薬の新規開発が世界的に停滞しています。耐性菌の増加を抑制し、感染症の治療薬として有用な抗菌薬の効力を維持するためには、第一義的に抗菌薬の使用に関して主導権のある医師や獣医師などの専門家に対して抗菌薬の適正使用を推進する必要があります。さらに最近では国民レベルでの認識を高めるために、より低年齢層への普及啓発活動の重要性が指摘されています。2016年に制定されたわが国の薬剤耐性対策アクション・プランにおいても、国民啓発事項の中に抗菌薬の適正使用が明記されています。

酪農学園大学には、附属高校として「とわの森三愛高等学校」があり、普通科の中に獣医学群獣医学類に進学し将来の獣医師を目指す少数精鋭の「獣医・理数コース」が開設されています。酪農学園大学では高校3年間と大学6年間の合計9年間で有為な獣医師を育成するというコンセプトで、高校教員と大学教員が一体となって獣医学関連の高校教育に当たっています。獣医師が抗菌薬の適正使用(獣医学分野では世界的に慎重使用という言葉が汎用されます)について身を持って実践するには、高校生の時代からの意識付けが重要と考え、2018年度から従来の獣医学関連授業に付加する形で、「獣医・理数コース」の生徒を対象に「課外授業」として耐性菌問題に取り組んでいます。そこで2019年度の課外授業の概要を紹介し、酪農学園大学での抗菌薬の慎重使用に関する実学教育の一端をご紹介したいと思います。

2019年度は、「獣医・理数コース」の生徒25名に対して前年度に引き続き「薬剤耐性菌を知り、そして対策を考えよう!」と題して大学教員により、現在、耐性菌がいかに人類に対する脅威となっているかを説明し、獣医師として実践する必要のある抗菌薬の慎重使用について生徒に考えてもらうようにしています。具体的には耐性菌をめぐる状況、抗菌薬の種類と作用、耐性菌とは何か、そして細菌が耐性になる仕組み、また獣医領域における耐性菌の現状と医療との係わり、抗菌薬の慎重使用などに関する授業を3時間実施しました。これらの基礎知識を持った上で、「耐性菌を知り、耐性菌を実感しよう!」と題しての実習を2日間にわたり、獣医学類6年生2名をアシスタントとして実施しました。まず、糞便由来大腸菌であるものの細菌を取り扱うことから、「細菌取扱における基本的心得」として基本的な細菌実験の心得を講義した後に実習に移りました。今回の実習の目的は、①身近な材料から耐性菌を探すこと、②大まかな菌種を推定すること、③薬剤感受性試験(デイスク拡散法)の原理と意義を知ること、④耐性菌の伝播に重要なトイレでの手の汚れを知ることの4項目としました。

まず実験1では、前日に各生徒に材料採取用器材(シードスワブγ1号“栄研”)2本を配布し、自らの判断で異なる材料からサンプリングを行いました。実習当日に自ら普通寒天培地と大腸菌の選択が容易なクロモアガーECC培地の2種類の培地と、それぞれに抗菌薬であるテトラサイクリン(TC)(2μg/ml)を添加した4枚の培地を作成し、持参した材料を接種しました。材料はイヌなどのペットやウシなどの家畜の糞便や、土壌などさまざまでした。それらの材料を接種した培地を37℃のふらん器で培養した結果、大腸菌あるいは腸内細菌と思われる細菌の発育がTC添加培地から認められました。大腸菌が分離された材料の多くが糞便材料であることから、動物の糞便には大腸菌が生息し、TC耐性大腸菌が多く認められることを実感することができました。実験2では、豚の糞便由来大腸菌を接種した普通寒天培地の表面に、3種の薬剤感受性ディスク(アンピシリン、TC、エンロフロキサシン)を静置し、37℃フラン器で一晩培養しました。翌日、ディスクの周りの細菌の発育阻止円の直径を測定しました。その結果、大腸菌にはそれぞれの抗菌薬含有ディスクで異なる阻止円が形成されることから、細菌の抗菌薬に対する感受性が抗菌薬の種類で異なることを知りました。このことから、獣医師が抗菌薬を選択する時の薬剤感受性試験の重要性を理解することができました。最期に実験3としてヒトの糞便に含まれる大腸菌(耐性菌を想定)がトイレで使用するトイレットペーパーの何枚を通過するかを知る実験をしました。生徒は実験用のグルーブを着用し、消毒用アルコールで指を消毒しました。その後、各班で5名の生徒が指に高校で使用するトイレットペーパーを5枚、10枚、15枚、20枚、25枚と別々に巻き付けました。次に大腸菌を一晩液体培養した培養液1mを普通寒天培地の上に注ぎました。これがお尻のモデルとなります。それぞれがトイレットペーパーを巻いた指をお尻のモデルに押し付け、トイレットペーパーを捨てた後に、クロモアガーECC培地に指を塗布しました。37℃で一晩培養した結果、大腸菌が10枚から15枚のトイレットペーパーを通過して指に付着することを実感しました。指についた大腸菌は手洗いが不十分であると、ドアのノブや室内に拡散し、ヒトや動物に伝播することを知ることができました。耐性菌の拡散(院内感染)を防止するためには、トイレの終了後の手洗いが重要であることを認識できました。

以上、今回学んだ抗菌薬の慎重使用に関する講義と実習を基礎に、自らの自主学習と全校生徒を対象とした抗菌薬の慎重使用に関するアンケート調査成績をまとめ、学内のみならず広く一般市民に対しても普及啓発活動を進める予定にしています。このような課外活動を経験した生徒が酪農学園大学獣医学群獣医学類に進学し、同級生や一般市民に対して耐性菌を抑制するための普及啓発活動に積極的に係ることを期待しています。