腸内細菌の新た応用:大腸ガンを早期に診断する

掲載日:2019.07.15

私たちの腸管には糞便1gあたり約1兆個の細菌が生息しており、総重量は約1から1.5kgに及ぶと言われています。これらの細菌は我々が食べる食物の栄養分の一部を利用して生活し、腸内細菌間で菌数のバランスを保ちながら生態系を形成しており、腸内フローラと呼んでいます。最近では専門家の間でマイクロビオームと呼ばれることが多いようです。菌種としては100~300種と言われ、ほとんどが空気のない条件で発育できる嫌気性細菌です。

腸内フローラの役割としては、消化・吸収の補助やビタミン合成、腸内有害菌の抑制、免疫賦活、さらに病原菌の排除などで、我々の健康維持にとって極めて重要であると考えられています。また、腸内フローラが乱れると腸内腐敗や発ガン性物質の産生などにより、便秘や下痢、それに腸内異常発酵などで、老化や生活習慣病の原因になることもあります。

健康維持に必要な腸内フローラを健全なものに整えるには、悪玉菌(ウエルシュ菌)を抑え、善玉菌(ビフィダス菌や乳酸菌)を増やすことが必要です。たんぱく質や脂質が中心の食事や、不規則な生活、各種のストレス、便秘などにより悪玉菌が増えるとされています。一方、善玉菌は乳酸や酢酸を作り、腸内を酸性にすることによって、悪玉菌の増殖を抑制し腸運動を活発にします。また、ビタミン(B1、B2、 B6、K、ニコチン酸、葉酸)の生成や、粘膜免疫を高め、血清コレステロールを低下させます。では、善玉菌を増やすにはどうしたら良いでしょうか?それはヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物など善玉菌が多く含む食物を毎日摂取することです。また、オリゴ糖や食物繊維は善玉菌の栄養源となりますので、これらを含む食物を食べることも必要です。

従来、腸管に生息する腸内フローラの機能は腸管だけの話しと考えられていました。ところが最近では、腸管は自律神経系やホルモンなどの液性因子を介して脳とも関連することが知られており、脳腸相関とも言われています。消化管の情報は神経系を介して大脳に伝わり、腹部不快感とともに、抑うつや不安などを引き起こすのです。このような情動変化はホルモンや自律神経を介して消化管に伝達され、さらに消化管の運動異常を悪化されるのです。さらに最近では腸内フローラと中枢神経との関連が注目されています。我々の想像以上に腸内細菌や腸管は重要な働きをしているようです。

今般、これまで述べた腸内細菌の新たな応用の可能性が報告されましたので最後に紹介したいと思います。それは大阪大学などの研究チームが日本人のガンで最も多い大腸ガンに関わる腸内細菌を特定したことを報告したことです。研究グループは、多発ポリープ(腺腫)や非常に早期の大腸ガンを有する患者さんの便に特徴的な細菌や代謝物質を特定したのです。大腸内視鏡検査を受けた616名の受検者の便を調べたところ、ガンのステージによって便中に増減している腸内細菌が大きく異なることが分かりました。まず、粘膜内ガンの病期から増加し、病気の進行とともに上昇する細菌では、Fusobacterium nucleatumやPeptostreptococcus stomatisと呼ばれる細菌で、既に進行大腸ガンで上昇していることが報告されている細菌でした。次に多発ポリープ(腺腫)や粘膜内ガンの病期でのみ上昇している細菌としては、Atopobium parvulumやActinomyces odontolyticusが特定され、これらの細菌が大腸ガンの発症初期に関連することが強く示唆されました(図参照)。また、病気の進行度に伴い、腸内細菌や腸内代謝物質は大きく異なることが分かりました。特定のアミノ酸と芳香属アミノ酸が病期により変化していたのです。

以上の成績は、患者の便を用いて特定の腸内細菌と腸内代謝物質を検出することにより、ガンを診断することの可能性を示したものです。今後は、ガンの進行に伴い、何故特定の細菌が増え、腸内代謝産物が変化したのかを明らかにする必要があるように思います。また、食事などの生活習慣との関係を詳細に検討することにより、科学的根拠を踏まえた新たなガン予防・治療につながる可能性を秘めています。

発ガンの早期(腺種や粘膜ガン)に増加し、ガンの進行とともに減少する細菌
健常者と比較した場合の有意差検定 +:P<0.05、++:P<0.01、+++:P<0.005(縦軸は便中の細菌相対量を示す)
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0607/index.html