ペルーでギラン・バレー症候群が集団発生

掲載日:2019.07.01

ギラン・バレー症候群は、急性・多発性の神経炎の一つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる病気です。重症の場合は、中枢神経障害性の呼吸不全を来し、一時的に気管切開や人工呼吸器を必要としますが、予後はそれほど悪くないといわれています。日本での年間の発病率は10万人当たり1~2人程度とされています。通常は単発性の発生であるのですが、6月12日のNHKニュースによれば、ペルーの首都であるリマや北部の観光地で、今年に入り206例の発症が確認され、4名が死亡しています。このことを受けペルー政府は、健康上の非常事態宣言を出しています。ペルーには世界遺産のマチュピチュなどに多くの日本人観光客が訪問することから、注意喚起を込めて今回はギラン・バレー症候群について紹介したいと思います。

原因は感染症(カンピロバクター、ジカウイルス、マイコプラズマなど)やワクチン接種(インフルエンザや狂犬病ワクチンなど)、全身性疾患(ホジキンリンパ腫、悪性腫瘍など)、薬剤(ガングリオシド、金製剤など)などが報告されています。特に60%以上の例で何らかの先行感染が認められるようで、感染症が主な引き金になるようです。因果関係が認められているのは、サイトロメガウイルス、EBウイルス、マイコプラズマ、カンピロバクターの4つと言われています。この内、最もよく理解されているのがカンピロバクター食中毒で、ギラン・バレー症候群発症の1週間前ころに下痢を起こすことが多いとされています。カンピロバクターは全体の20~30%を占める主要な先行感染であり、カンピロバクター食中毒後に発症する確率は0.1%と言われています。発症機序は、カンピロバクターの菌体の構成成分であるLOS分子が神経組織のガングリオシドと構造が似ており、LOS分子に対する患者の抗体が誤って自分の末梢神経も攻撃してしまうということによって発症するといわれています。

次に、本病を考える場合、カンピロバクターについて最も注意する必要があるので、カンピロバクター食中毒についても触れておきたいと思います。細菌性食中毒の中で最も事件数と患者数が多く、2015年の統計では事件数318件で患者数が2089人となっています。原因食品は主に生や加熱不十分の鶏肉を食べることや湧き水などの水を飲むことで、喫食後2~3日に下痢(水様便、時に血便)、腹痛、発熱(38~39℃)をきたします。発症菌量は数百個と言われており、非常に低い菌数で感染することになります。多くの患者は1週間で治癒するのですが、先ほど述べたギラン・バレー症候群を発症することがあります。国内の鶏肉製品のカンピロバクター汚染率は高く、Suzukiらが2007年に2002年以降に雑誌掲載された論文を集計したところ、胸肉やモモ肉で約60%となっています(Food Control 20:531-537, 2009)。つまり、小売店で購入する鶏肉のほとんどがカンピロバクターに汚染していることになるので、包丁やまな板から別の食材を汚染することに注意する必要があります。また、鶏肉に触れた手指にも細菌が付着していると考え、手洗いを十分にして欲しいと思います。

今回、ペルーで集団発生したギラン・バレー症候群ですが、以上のことを勘案すると、何らかの感染症が流行した結果、多数の患者がでたものと考えられます。しかし、今のところどのような感染症であるのかは全く情報がありません。したがって、観光で当地を訪れる機会がある場合は、一般的ですがトイレ後の手洗いや食べ物を洗うこと、さらにはできる限り加熱した食品を食べるなどの衛生対策を徹底する必要があるようです。詳しい情報は以下の通りです。

ギラン・バレー症候群
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c17.pdf

カンピロバクター食中毒
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html