なぜ今、耐性菌対策が加速しているのか?

掲載日:2019.04.22

最近、新聞やテレビなどのメディアで多剤耐性菌による院内感染事例が多く報道されるようになっており、医療における耐性菌の蔓延が極めて深刻な問題となっているのです。耐性菌問題は日本だけの話でないことは当然で、米国でも2013年にアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、最低限の推定値として1年間で耐性菌感染症に200万人が罹患し、23,000人が死亡することを報告しました。さらに英国政府がオニール委員会に耐性菌の影響についての調査を依頼した報告書をみると、何も対策が取られなければ2020年までに耐性菌感染症による死亡者が1,000万人になり、現在の死因の第1位であるガンの800万人を超えると警告しています(図1)。また死者の多くは私たちが生活するアジアであり、多大な経済的な負担になるとも述べています(図2)。

このような事態を受け、WHOは2015年5月に開催された総会において、抗菌薬に対する耐性菌と闘うために各国における行動計画の枠組みを提供する薬剤耐性世界行動計画を採択しました。この中で、「耐性菌に関する普及・啓発の促進」「耐性菌動向調査の実施」「感染予防・管理の推進」「抗菌薬適正使用の推進」「感染症用創薬の強化」の5つの戦略的目標を掲げました。また、この目標を実行するに当たっての基本的な考えをワンヘルス(一つの健康)としました。つまり、耐性菌は人のみならず動物や環境で相互に伝播していることから、医師や獣医師をはじめ、それぞれの関係者が連携のもと協力して耐性菌対策を実行していこうとするものです。ワンヘルスについては、このコラムの一般向け情報(2017年6月2日)で解説しているので、併せてお読みいただければ幸いです。

丁度、WHOの総会が開催された次の月にドイツのエルマウでG7サミットが開催され、耐性菌問題が主要課題として取り上げられました。G7サミットといえば国際紛争や世界経済を論じる場と思われがちですが、耐性菌問題も取り上げられたのです。つまり、今や耐性菌対策は国際的にも取り組まなければならない最重要な課題になっているのだと思います。最終日にG7の首脳が署名する首脳宣言の中にも、G7各国はWHOの薬剤耐性世界行動計画を強く支持することが明記されています。

抗菌薬は世界各国で使用されていますし、耐性菌も世界各国で出現しており、人や物が自由に行きかう現代において、この問題への対応が一部の先進国だけで治まるはずはありません。2016年9月に開催された国連総会においても、薬剤耐性にかかわるハイレベル会議が開催され、薬剤耐性に対するWHOの役割を確認するとともに、国連加盟国政府のこの問題に対する重要な役割と責任が確認されました。ここでワンヘルスによる耐性菌対策は国際的に重要な課題となり地球規模で取り組むことになったのです。

では日本ではどうかといえば、日本はWHOに加盟していますし、G7サミットの参加国でありますので、WHOの薬剤耐性世界行動計画に準拠する対応を取ることは当然のことです。WHOは2年以内に加盟国が独自に薬剤耐性(AMR)対策アクション・プランを制定することを求めており、各国政府はすぐに対応を図っておりました。ところが日本の動きが遅かったことを、当時の厚生労働大臣である塩崎恭久衆議院議員は大変憂慮し、大臣主導でさまざまな対応を図りました。まず取り組んだのは、日本版のAMR対策アクション・プランの制定でした。さすがに担当大臣が動いたことで対応が加速し、2016年4月に国際的に脅威となる感染症対策閣僚会議から、AMR対策アクション・プランが公表されました(図3)。これはWHO薬剤耐性世界行動計画の戦略的目標の各項目について、具体的に2020年までの5年間に実行する内容を記載したものです。また、日本独自の項目として「国際協力」があり、今後、日本がこの分野で先導的な役割を果たすことを明記しています。さらに、これまでの数多あるアクション・プランと異なるのは、医療分野と畜産分野における成果指標を掲げていることでしょう。これまでならどちらかと言えば努力目標が書かれている程度なのが、今回は数値目標を公表したのです。数値目標が設定されたということは、否応なしに対応しなければならない状況が生まれたわけで、医療を担当する厚生労働省、畜産を担当する農林水産省、環境を担当する環境省が組織、人員、予算を結集して今対応を図っているのです。以上のような背景から、今、医療分野や畜産分野で薬剤耐性対策が加速しているのです。設定した数値目標はかなり高めのものであり、あと残り2年間でどこまで数値目標を達成できるか、日本のみならず世界が固唾を呑んで見守っているのです。

図3.薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)の概要
http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-4.html