動物用薬剤感受性ディスクの必要性

掲載日:2019.04.16

薬剤耐性菌の出現要因として重要なのは、抗菌薬の誤用と過剰使用であると言われています。そのため世界的に推進されている「抗菌薬の慎重使用」は極めて重要な考え方になります。農林水産省は、「畜産物生産における動物用抗菌性物質製剤の慎重使用に関する基本的な考え方」、つまり抗菌薬の慎重使用ガイドラインを公表しています。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/pdf/prudent_use.pdf
その中で、感染部位から菌分離を行い、原因菌の検索を行うとともに、薬剤感受性試験を実施することとされています。臨床獣医師はこれらの試験検査結果を基に、治療が必要とされた場合、有効性、投与方法、体内動態、適正な使用禁止期間・休薬期間等を総合的に考慮して抗菌薬を選び、適正に使用する必要があるとされています。つまり、適正な抗菌薬の選定にあたっては、臨床現場で使用可能な市販される動物用抗菌薬に対応した感受性ディスクが必須となります。しかしながら、非常に残念なことに現時点で全ての動物用抗菌薬に対応した感受性ディスクが容易に入手できない状態になっているのです。このことがわが国の獣医療における薬剤耐性対策が十分にできない根本的な原因となっているといっても過言ではないのです。耐性菌対策を推進しようとしている獣医師にとっては、極めて由々しきことだと思います。その原因には農林水産省もさることながら動物用抗菌薬の製造販売業者の基本的な姿勢にもあると考えています。

ではこのような状況を打破するためにはどのような方法があるのでしょうか?国内での製造販売は農林水産省が現在鋭意進めているとのことですので、今回は別の方法を考えてみましょう。それは海外にある感受性ディスクを導入し、臨床現場ですぐにでも使える状況を作ることだと思います。海外には動物用抗菌薬に対するさまざまな感受性ディスクが市販される実態があります。たとえば、アプラマイシン、セファピリン、セファロニウム、ナフシリン、タイロシン、チルミコシンなどなどです。当初、農林水産省は動物用感受性ディスクをS(感受性)、R(耐性)、I(中間)の判定基準を示さないにもかかわらず動物用医薬品として承認が必要との判断を下しました。今回はこの判断についての議論はしませんが、この判断が感受性ディスクの普及の足枷になったことは否めません。そこで農林水産省は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律関係事務の取り扱いについて」の一部改正(28消安第5954号平成29年4月26日)により、感受性ディスクを届出制にして、規制を大幅に緩和しています。しかし、残念なことに折角の規制緩和措置が広く知られていないのです。実はこのコラムを書いている私も知りませんでした。この措置は動物用抗菌薬の製造輸入業者には知られているかもしれませんが、肝心の試薬業者は全く承知していないのです。そこで届出内容をお知らせすると、動物用医薬品等取締規則の別記様式第21号(3)に体外診断用医薬品についての届出書の様式が記載されています。
http://www12.plala.or.jp/taacohya/Houki/JYUITIKUSAN/DoyakuTorisimariKisoku/DoyakuTorisimari_YosikiPDF/DoyakuTorisimari_Yosiki82.pdf
それによれば、1.業者の氏名または名称及び住所、2.業者の登録年月日及び登録番号、3.製造販売品目、4.規格及び検査法、5.参考事項となっています。また、農林水産省令第28号(平成29年4月26日)により、さらに成分及び分量と使用目的を記載することが追加されています。したがって、実測値などの試験データの提出は不要であり、申請会社にとって経済的な負担が少なく届出申請できることになるのです。しかし、当然のことながら申請会社として安定性試験成績や規格に関する試験成績を自社で保有することは必要に思われます。いずれにせよ、それほどの経済的あるいは期間的な問題もなく導入することが可能であると思われるのです。

以上紹介したように、世界的な標語となっている獣医領域における抗菌薬の慎重使用の推進をさらに発展させるに当たっては、動物用抗菌薬に関する感受性ディスクを使った薬剤感受性試験を臨床現場で実施できる体制を整備することが必須であることを理解して頂きたいと切に思う次第です。このために企業としてできることを今一度精査して欲しいと願っています。

 

Antimicrobial resistance:

No action today, no cure tomorrow!

薬剤耐性菌の驚異:

今動かなければ明日は手遅れ!

WHO(2011)