話題のペット由来感染症-カプノサイトファーガ感染症

掲載日:2019.04.08

イヌやネコと生活を共にしていると、動物に咬まれたり、引っ掻かれたり、舐められたりするなど飼い主と濃厚な接触があると思われます。イヌやネコの口腔内には様々な細菌が常在菌として生息しています。場合によっては、これらの細菌で飼い主が感染することが知られています。そのような細菌の一種であるのがカプノサイトファーガ(Capnocytophaga)属菌で、死亡を含めたヒトへの感染事例が注目されています。そこで今回はカプノサイトファーガ感染症の概要をお知らせします。

 

Capnocytophaga属菌とは?>

ヒトやイヌ・ネコの口腔内常在細菌であるカプノサイトファーガ属菌は現在9菌種が知られています。その内、イヌやネコに常在するのは、C.canimorsusC.cynodegmi及びC.canisの3菌種になります。本菌は通性嫌気性といって空気があってもなくても増殖できる細菌で、染色性からグラム陰性桿菌になります。発育に二酸化炭素を要求し、鞭毛を持たないのに寒天培地上で滑走することを特徴としています。

上記の3菌種の国内のイヌやネコの保有率は、C.canimorsusがイヌ74-82%、ネコ57-64%、C.cynodegmiがイヌ86-98%、ネコ84-86%、C.canisがイヌで54%と言われており、ほとんどのイヌやネコの口腔内に生息していることに成ります。

 

<カプノサイトファーガ感染症の概要>

本感染症の発生頻度は非常に低いと言われています。例えばオランダの報告では年間100万人あたり0.67例です。日本国内の調査では、1993年から2017年までに93症例(死亡19例、致死率約20%)です。この内、直近5年間では55症例で、注目されたためか近年患者数は増加傾向にあります。患者は中高年層に多く、40歳以上が9割以上を占めます。糖尿病や免疫抑制剤の投与、あるいは脾臓摘出など明らかな免疫力の低下要因を有する患者が半数を占めます。興味あることに男女比は圧倒的に男性が多いとされています。感染原因は、イヌによる咬掻傷52例、ネコによる咬掻傷20例、イヌやネコとの接触歴のみ18例、不明3例となっており、イヌとの接触歴が確認された例が55-84%と、ネコより多いようです。3菌種の内、医学的に最も重要なのは、C.canimorsusで93例中88例(死亡18例)を占めています。

 

<臨床症状>

本菌はイヌやネコの常在細菌ですので、基本的に症状を示しません。しかし、ヒトの感染症では、敗血症・敗血症ショック(41%)、細菌性髄膜炎(13%)、不明熱的病態(13%)、蜂窩織炎(11%)、呼吸器感染症(7%)との報告があります。その他、感染性心内膜炎、敗血症性関節炎、胆嚢炎など様々な臓器に感染を生じる可能性があります。敗血症例の臨床症状は、全身倦怠感、発熱、皮疹、血圧低下、腎機能障害などです。C.canimorsus菌血症の死亡率は、13-33%程度とされ、敗血症ショックや多臓器不全を伴う症例では60-80%と上昇します。

本感染症の診断で最も重要なポイントは、イヌやネコとの接触歴を確かめることとされています。多くの臨床医師もこの感染症を良く知らないと思いますので、動物との接触歴を適切に伝えることが重要です。この情報から適切な原因菌の培養法や培養期間が推定され、早期に診断することが可能と思われます。治療としては感染局所の処置とともに、抗菌薬の投与となります。国内の分離株では、一部の抗菌薬に耐性を示しているものの、今のところ多くの抗菌薬に感受性を示すといわれています。

 

以上、紹介したように本菌はイヌやネコの口腔内常在細菌であり、動物を治療するという選択肢はありません。しかし、発生頻度は極めて低く、極めて稀な感染症であることから過剰に恐れる必要はないと思います。問題は飼い主側の健康状態であり、中高年の飼い主の方で免疫抑制状態にある場合や基礎疾患がある方はイヌやネコとの濃厚な接触を避けた方が良いと思われます。もし、イヌやネコに咬まれたり、引っ掻かれた場合は病院を受診して、イヌやネコとの接触歴を医師にお話しいただくことが重要と考えます。

なお、さらに詳しい情報を必要とされる場合は、厚生労働省のホームページに「カプノサイトファーガ感染症に関するQ&A」があるので参考にして下さい。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/capnocytophaga.html