青森県でVRE感染が拡大

掲載日:2019.03.19

青森県の八戸赤十字病院で、昨年5月から12月までに、患者64人が抗生物質の効かないバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に感染していたというニュースが流れました。その後、八戸市民病院では昨年8月から今年の2月までに91人のVRE陽性者が見つかっています。さらに県央中央病院でも入院患者からVREを保菌している人が見つかっています。このように青森県では複数の病院の多くの患者からVREが検出されるという異常事態が続いています。ただ、患者からVREが分離されるというだけで、明らかにVRE感染が原因で亡くなった方は見つかっていないようなので冷静な対応をお願いしたいと思います。そこで今回は家畜とも関連の深いVREについて紹介したいと思います。

バンコマイシン(VCM)はグリコペプチド系の抗生物質であり、ヒトの院内感染で主な原因とされるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の有効な治療薬とされています。VREはVCMに耐性を獲得した腸球菌ということになります。ここでいう腸球菌はヒトや動物の腸管に生息する常在菌で、ほとんどのヒトや動物の糞便から分離されるありふれた細菌の一種です。したがって、健康なヒトでは腸管にVREを保菌しても、通常は無症状で無害と考えられますが、手術後の患者や免疫機能が低下した患者では、腹膜炎、術後感染症、肺炎、敗血症を引き起こす場合があり注意を要する細菌となっています。VREは1980年代前半に欧州で最初に分離され、1990年代に欧米で急速に拡大した耐性菌です。しかし、日本は欧米と異なり、理由は不明ながらVRE感染の症例が極めて少ないと言われていたのです。実際に病院で分離される腸球菌に対してVCMの耐性率は1%以下で推移しています1)。このような背景から今回の青森でのVRE感染事例が大きくクローズアップされているのです。

先に述べたように腸球菌は健康なヒトの腸管や口腔、それに外陰部からしばしば分離され、病原性が弱いことが特徴とされています。また乳酸発酵をするため乳酸菌の一種であり、乳製品に使用されたり整腸剤の成分にもなっています。VREも腸球菌と同じ性状の細菌であることから、感染症を引き起こすことは極めて稀なのです。健康なヒトが保菌する細菌の中で平素は無害でも、私たちの健康状態によって感染症を引き起こすことがあるのと本質的に違いがないのです。しかし、VREは多剤耐性菌ですので、もし感染症を発症した場合には治療薬が極めて限定されるのです。

以前に、家畜の成長促進用としてVCMと同じ系統の抗生物質であるアボパルシン(AVP)が世界的に使われていました。欧州では鶏と豚に、日本では鶏に使われていました。AVPを家畜に使うことにより腸管にAVP耐性腸球菌が選択・増殖することが知られていました。AVPはVCMと同じ系統なので、AVP耐性腸球菌はつまりVREとなるのです。つまり、家畜にAVPを使用することによりヒトで重要視されているVREが家畜の腸管内で出現したことになります。AVP投与により家畜で増加したVREがヒトの健康に影響したという明確な科学的根拠が示されないまま、欧州ではヒトのVRE感染が多かったことから、1995年にデンマークで、1996年にドイツでAVPの使用を中止しました。その後、1999年にEUでAVPをはじめとする4品目の成長促進目的での抗菌薬の使用を中止しています。その後ろ盾となったのが“予防の原則”といわれる考え方で、「科学的に不明確な状況下で重大かもしれないリスクに対して、科学的探究の結果を待たずに適応されるリスク管理手法」と定義されるものです。あまりに予防の原則を重要視すると科学が衰退するとの声明が科学者団体から出されました。その後、2006年にはEU全域で成長促進目的での抗菌薬の使用を中止しています。では日本の対応はどうだったでしょうか?欧州の動きを受けてAVPを投与する鶏の糞便におけるVRE調査を実施したところ、低頻度ではありましたがVREが分離されることが明らかにされました2。その結果を受けて、農林水産省は1997年にAVPの飼料添加物としての指定を取消したのです。

今回の青森におけるVRE感染の原因は今だ明らかにされていません。推定するに現在、分離されたVREの遺伝学的解析が進められていると思いますので、近々に分離されたVREの異同や由来に関する情報が公表されるものと思われます。家畜でのVREの現状はどうかといえば、農林水産省が実施する家畜衛生分野での薬剤耐性モニタリング調査(JVARM)で取り扱う腸球菌に対して、どういう分けかVCMが薬剤感受性試験の調査対象となっておらず、VREの実態は不明です。そこで東京都感染症情報センターが公表した情報を見ると、2009年から2015年に都内で流通する食肉について調査したところ、医療上重要だと言われているVanA型のVREが国産鶏肉353検体中1検体(0.3%)、輸入鶏肉251検体中9検体(3.6%)より検出されています3)。さらに分離されたVanA型VRE10株のうち、9株はブラジル産鶏肉由来であったと述べています。今回の青森の事例に食肉が関与するという情報はないのですが、一般に家畜由来のVRE とヒト由来VREに遺伝学的な関連はないとされていることから、食肉に付着するVREがヒトに伝播したとは考えにくいと思われます。いずれにせよ、特定の地域で高頻度にVREがヒトから分離されたことは事実ですので、ヒトからヒトへの伝播を防止するとともに、その由来に関する情報が公表されることが待たれます。

 

1)薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会:薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2018,

平成30年11月29日 http://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000415561.pdf

2)Yoshimura H, et al.,: Isolation of glycopeptide-resistant Enterococci from chickens in Japan, Antimicrob Agents Chemother 42(12):3333, 1998.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC106052/pdf/ac003333.pdf

3)東京都感染症情報センター:食肉から分離される薬剤耐性菌

http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/epid/y2017/tbkj3802/