イヌやネコはどんな耐性菌を持っているのか?

掲載日:2019.02.18

2018年11月30日に農林水産省は、2017年度に全国の動物病院に来院し、何らかの感染症を疑ったイヌとネコから集めた尿などの臨床材料から分離した薬剤耐性菌の調査成績を公表しました http://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/pdf/H29cyousa20181130.pdf。これは国が実施する初めての全国的な疾病に罹患した伴侶動物由来耐性菌の調査になります。今後は健康な伴侶動物由来細菌の調査も行われるものと思います。そこで今回はこの報告書を中心にイヌやネコの伴侶動物における耐性菌の保有状況を紹介するとともに、家庭内で実施できる対策についても解説したいと思います。なお、ここで注意して頂きたいのは、健康なヒトが耐性菌を伴侶動物から貰っても、すぐに健康上の問題を起こすことはないということです。過度に耐性菌を恐れる必要はありません。私たちは常に食品や環境から耐性菌に曝されており、伴侶動物が唯一の経路とは考えられないのです。ただし、高齢の方や病気の方、それに幼児など感染症に対する抵抗力が弱っている方に対して感染して肺炎などの症状をだすと、治療が困難になる可能性があるということです。耐性菌に対する正しい知識を持っていただき、素晴らしいペットライフを過ごしていただきたいと願っています。

今回特に紹介したい耐性菌は、医療において重要視され、ヒトの健康に影響する可能性のある基質特異性拡張型β‐ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌とフルオロキノロン耐性大腸菌になります。どちらも大腸菌でヒトや動物の糞便中にほぼ含まれている有りふれた腸内細菌です。ESBLは細菌が産生する酵素の一種で、皆さんが細菌感染症で病院に行った時に医師が良く処方するセファロスポリン系抗菌薬を分解するものです。ヒトがESBL産生大腸菌による感染症に罹った場合、治療のために使うセファロスポリン系抗菌薬が分解され無効となります。また、特に最近開発され重症な感染症に使用される第三世代や第四世代のセファロスポリン系抗菌薬に感染した細菌が耐性になることから注目されています。なお、第三世代や第四世代というのは初期に開発された第一世代より広範囲の細菌に作用することが可能です。一方、フルオロキノロン系抗菌薬も細菌感染症に極めて有効な治療薬で、広範囲な微生物に対して殺菌効果を示すことから医師にとって重要な治療薬といえます。

では、今回の公表された報告書を見てみると、図1のように伴侶動物から分離された大腸菌の30~40%と多くは、獣医師が良く処方する第一世代セファロスポリン系抗菌薬であるセファレキシン(CEX)や第三世代のセフォタキシム(CTX)に耐性を示すことが分かります。特に第三世代セファロスポリン系抗菌薬に耐性を示すことは、一般にESBL産生大腸菌である可能性が高いといえます。事実、イヌから分離した大腸菌の10%前後がESBL関連遺伝子を保有しているという報告があります。一方、フルオロキノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシン(CPFX)に耐性を示す大腸菌が40%もいることが分かります。これまでの報告からイヌから分離されたフルオロキノロン耐性大腸菌は、セファロスポリン系抗菌薬にも耐性をしめす多剤耐性菌であることが多いといわれています。このような多剤耐性菌に感染すると治療がさらに困難になるのです。

では、イヌやネコから分離されたこれらの耐性菌の分離率は、病気の家畜における分離率に比べて多いのか少ないのかが気になると思います。図2を見ていただくとセファロスポリン系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬ともに伴侶動物から分離された大腸菌は、家畜より高い分離率であることが分かります。また、これまでの調査でも同じ傾向で、イヌよりネコから分離された細菌で高い耐性菌分離率です。最近の調査によれば家庭で飼育されるイヌとネコの約90%は室内で飼育されています。また同じ箸で食べ物を食べたり、ベットを共にするなど、伴侶動物はヒトとの距離が非常に近い動物です。伴侶動物の糞便や尿などの排泄物の処理をするのは飼い主であるヒトであることを考えると、耐性菌が排泄物を介してヒトに伝播することは容易に想像されます。ある論文ではイヌを飼育する34家庭のイヌと飼い主の糞便由来大腸菌を調べたところ、3家庭から同じ大腸菌が分離されたことが報告されています。つまり実際に家庭内で伴侶動物から糞便を介してヒトに耐性菌が伝播したことを示しているのです。

なお、今回の調査成績では、現在、医療上最も重要視されているメロペネム(MEPM)やコリスチン(CL)の耐性菌は検出されないか、ごくわずかであることを示し安心しました。しかし、文献では日本でイヌやネコからメロペネムやコリスチン耐性菌が分離されていることから、今後もこれらの耐性菌の分離状況に細心の注意を払うことが求められます。

最後に家庭内で飼育される伴侶動物から耐性菌感染を防ぐにはどうしたら良いでしょうか。まず最も重要なのは日頃から飼育する動物の健康に関心を持つことです。病気にならなければ抗菌薬を使うこともないことから、動物の体内で耐性菌も増えることがありません。また日頃の衛生管理を徹底することも重要です。体表や肛門の周りを清潔にし、衛生的な餌や水を与えることです。生肉の表面には耐性菌を含めいろいろな細菌が付着していますので耐性菌対策から見ると与えない方が良いと考えます。現在のペットフードは完全栄養食品ですので、ペットフードだけで飼育しても栄養上、問題になることはありません。また排泄物には多数の耐性菌が含まれている可能性がありますので、処理を速やかに実施し、処理に当たってはゴム製の手袋を着用するか、処理後の手洗いを励行することが重要です。さらに伴侶動物と過度な接触を避け、キスをしないことやベットを共にしないなどの対策を実行していただきたく思います。いずれにせよ伴侶動物は我われが生きていくためにはなくてはならない存在ですので、お互いに健康で長い期間を過ごすことを考えて、耐性菌や対策に関心を持っていただきたいと思います。