家畜の成長を促進する抗菌薬‐抗菌性飼料添加物とは何か?‐

掲載日:2019.01.23

食用動物(家畜)に使用する抗菌薬には、大きく二つのカテゴリーがあります(図)。一つは皆様方がご承知の医療用と同じく感染症の治療に用いられる動物用医薬品としての抗菌薬で、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)の規制を受けています。二つ目のカテゴリーは、家畜特有のもので成長促進・飼料効率の改善・生産性向上目的に使用され「飼料添加物」と呼ばれています。飼料添加物には抗菌薬以外の化学物質もあることから、飼料添加物としての抗菌薬を特に抗菌性飼料添加物と呼んでいます。飼料添加物は薬機法とは別の「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」(飼料安全法)により規制されています。実際には家畜の餌に微量(餌1000kgに10g程度)の抗菌薬を飼育時期ごとに比較的長期間投与することになります。家畜に対して闇雲に投与されているのではなく、抗菌薬の種類、対象家畜と飼育時期、投与期間は飼料安全法で厳格に決められており、これを遵守することが求められています。微量の抗菌薬を家畜に投与すると成長促進効果があることは、一般的に信じられないことだと思われます。そこで公表論文から抗菌性飼料添加物の効果をお示ししたいと思います(図)。アビラマイシン(avilamycin)は抗菌性飼料添加物専用の抗生物質になります。横軸は餌に混ぜるアビラマイシンの量で、餌1000kgあたりのアビラマイシンのg数です。5 ppm以上を餌に混ぜて豚に投与すると、与えない豚(0 ppm)に比べて1日当たりの平均増体重(g)が良いことが分かります。また、飼料効率といって一定の増体重を得るのに必要な餌の量ですが、これも5 ppm以上のアビラマイシンで与えないより少なくて済むことが分かります。つまり少ない餌で微量の抗菌薬を与えることで、価格が上昇している餌を与えた時と同じ効果が得られるのです。飼料添加物は外国から安い食肉が輸入されることを考えれば、国内での生産コストを減少させますし、安全性に問題がないのであれば畜産にとって極めて有用な資材といえます。では、なぜ微量の抗菌薬を餌に混ぜて給与すると増体効果が得られるのでしょうか?結論をいえば残念ながら今でも良くメカニズムがわからないのです。考えられる機序としては、低濃度でも抗菌薬なので腸内細菌を減少させ、発酵生産物の生成を抑制することで、解毒のためのエネルギー消費を軽減することが考えられます。また、腸管内の有害細菌を減少させ細菌が産生する毒素などの成長阻害要因を抑制することなども考えられます。

このような抗菌性飼料添加物ですが、投与を行えば家畜の糞便中に薬剤耐性菌が増えることが知られています。糞便中の耐性菌が食肉の処理過程で肉の表面を汚染することがあります。そのような食肉を加熱不十分の状態で喫食すると、耐性菌がヒトに伝播し、ヒトの健康を損なうのではないかとの懸念が指摘されてきました。そこでEU(欧州連合)は2006年1月から抗菌性飼料添加物を餌に添加することを全面的に禁止しています。また、2015年にドイツのエルマウで開催されたG7サミットの首脳宣言でも、「リスク分析がない場合は成長促進のための抗菌薬の使用を段階的に廃止する」と述べられています。このように国際的には畜産にとって有用な抗菌性飼料添加物の存続が厳しい状況にあります。

では日本の状況について心配する方も多いと思われるので以下に説明します。日本では農林水産省の成分ごとの要請を受けて内閣府の食品安全委員会により、家畜に抗菌性飼料添加物を与えることにより選択された耐性菌(これをハザードと呼んでいます)が、食品を介してヒトの健康にどのような影響を与えているのかを、論文などの最新の科学情報を基に評価を行い、ヒトに対するリスクの程度を定性的(低度、中等度、高度)に示しています。これを食品媒介性健康影響評価(リスク評価)と呼んでいます。リスク評価結果を公表するに当たって、消費者や農家の皆様方などに情報を開示して意見を求めています。農林水産省は食品安全委員会の評価結果を受けて、リスクが低減化する方策(リスク管理)を実行しています。抗菌性飼料添加物については、リスクが無視できる程度以上(低度)であれば禁止措置を取ることになっています(詳しくは2017年8月2日の本コラムをご覧ください)。実際に2018年7月にコリスチンとバージニアマイシンの2品目が禁止となっています。なお、EUで抗菌性飼料添加物を全面禁止したのは、科学的なデータに基づいたものでなく「予防の原則」を適用したためと言われています。「予防の原則」は、科学的に不明確な状況下で、重大であるかも知れないリスクに対して、科学的な探究の結果を待たずして適応されるリスク管理の方法です。したがって、あくまで科学情報を基に考える日本とは全く異なる考え方の下にリスク管理が行われたことになります。「予防の原則」は一見消費者にとって良い方法に見えるかもしれませんが、このことを連発すると科学が衰退し、わが国の農業に与える影響も大きいことを理解して欲しいと思います。