高校生による抗菌薬の適正使用に関するアンケート調査

掲載日:2019.01.16

医療における薬剤耐性菌の蔓延は世界的に深刻な事態に陥っています。耐性菌の増加を抑制し、感染症の治療薬として有用な抗菌薬の効力を維持するためには、医師や獣医師などの専門家のみならず一般の方々にも抗菌薬の適正使用を普及啓発する必要があります。そのためには一般の方々がこの問題をどのように認識しているか知ることは重要になります。しかし、次世代を生きる高校生の意識調査は非常に限られているように思います。

酪農学園大学には、附属高校として「とわの森三愛高等学校」が設置されています。この普通科の中に、将来の獣医師を目指す少数精鋭の「獣医・理数コース」があり、9年間で獣医師を育成するというコンセプトで、高校教員と大学教員が一体となって高校教育に当たっています。獣医師が抗菌薬の適正使用について身を持って実践するには、高校生の時代からの意識付けが重要と考え、今年度から従来の獣医学関連授業に付加する形で、「課外授業」として耐性菌問題に取り組んでいます。今年度は、「薬剤耐性菌を知り、そして対策を考えよう!」をメインテーマに、大学教員による授業と、獣医学類6年生をアシスタントとする実習を実施しました(写真参照)。また課外授業の一環として参加する高校生が主体となり、在校生と教職員の全員を対象とする抗菌薬の適正使用に関するアンケート調査を実施しました。そこで今回は、アンケート調査の概要を紹介したいと思います(添付資料参照)。

アンケートの質問事項や実施方法の詳細や結果の集計は、ほぼ高校生が自主的に行いました。調査の対象となったのは調査実施日に登校した全生徒652名でした。対照として成人の認識を調査したのは教職員31名で、標本数に開きがあり両者を単純に比較するには問題があり参考程度の数値とお考え下さい。まず、Q1.で抗生物質(抗生物質と合成抗菌薬を含めた抗菌薬という言葉と同義語で用いています)を知っているかと聞いたところ、高校生の52%が、教員の81%が知っていると答えました。次にQ2.で風邪やインフルエンザでの抗生物質の効果を尋ねたところ、高校生の78%、教員42%が有効であると答えています。このことを見ると、Q1.で知っていると答えた人の多くは抗生物質という固有名詞を聞いたことがある程度で、その役割や影響などの詳しい知識は持ち合わせていないことが想像されます。つまり抗生物質の本来の役割である細菌の発育を抑制したり破壊したりすることの認識が不十分であると思われました。また、風邪やインフルエンザがウイルス性疾患であるとの知識が欠如しているのかも知れません。教員の認識については、2016年に実施されたYahoo意識調査(135,137票)で、「抗生物質は、風邪やインフルエンザに効果がないって知っている?」との問いに、43%の方が知らなかったという結果に近似しています。また、Q3.では不必要な抗生物質の使用で抗生物質が効かなくなることを尋ねたところ、高校生の74%、教員の90%が認識しているようでした。これは直接的に質問していないのですが、暗に薬剤耐性菌の存在を知っていることとも解釈されます。さらに質問は抗生物質の不適切な使用について尋ねたところ、高校生も教員も医師の指示に従って適正使用している実態が明らかになりました。

以上、アンケート全体を見てみると、高校生の抗生物質についての認識が不十分である実態が見えてきます。抗生物質という名前や、薬剤耐性という現象は知識として知っているものの、その関連が十分に理解されていないことの表れであると感じました。また、風邪やインフルエンザなどの感染症に関する知識も不十分であるように思われます。これらの結果は、今後の授業に反映させなければならない点を示している点でも有意義な調査となりました。感染症の治療に重要な抗生物質の効力をできる限り維持するためには、血気盛んな高校生の時代から感染症とはどのようなものか、そして抗生物質の適正使用が如何に感染症の治療に重要であるかを高校生時代から教育する必要性を強く印象付けられました。少なくともとわの森三愛高等学校の獣医・理数コースの生徒は、将来獣医師になるとの目標を掲げている高校生であることから、高校時代の意識付けが将来大学での耐性菌教育の獣医学生や教員に対する起爆剤になることを期待しています。なお、この授業に参加した生徒は、グループによる自主学習を経て、講義と実習、それにアンケート結果をまとめた発表会を行い、今年の課外授業を終えました。ここで発表内容を紹介することはできませんが、現在の耐性菌問題を理解し対策を論じた素晴らしい内容であったことを申し添えます。

実習内容の説明を聞く生徒たち

初めての培地作りに奮闘する生徒

持ち込んだサンプルを培地に接種している生徒