犬のクローン・ビジネス最前線

掲載日:2018.12.03

一般に犬の寿命は人より短く、飼い主は伴侶動物として密接な関係にあった犬との辛い別れを経験することになります。できるだけ長期間にわたり生活をともにしたいと願っても、犬の寿命を人並みに延ばすことは不可能に近く、それは運命としか言いようがありません。そんな飼い主の思いを代弁するような新しい技術が海外で実用化されて話題となっています。今回は犬のクローン・ビジネスの話です。

1996年にイギリスで「ドリー」と名付けられたクローン羊が誕生し、新聞やテレビなどのメデイアを賑わしたことを覚えていることと思います。クローンとは、ギリシャ語で「Klon=小枝」を語源とし、「遺伝的に同一である個体や細胞」を指す生物学の用語です。つまり、クローン犬とは、全く同じ遺伝子組成を持った犬を指し、外貌は瓜二つとなります。ただし、性格は環境要因の影響が大きいので全く同じでないと思われます。その外貌が同じ犬がクローン技術を使用することにより、生前や死後でも遺伝学的に同じ個体を作ることが可能なのです。この技術の利点としては、①同じ遺伝子をもった動物の大量手段となることや、②医薬品(タンパク質)の大量製造手段となること、③絶滅の危機に瀕している希少動物を保護すること、④再生の手段などが上げられています。特に畜産では優良な性質をもった家畜を大量に生産できる技術になることが期待されるものです。一方、クローン技術は、両性のかかわり無しに、自然とは全く異なる経過で子孫を生み出すものであり、生命の歴史において生殖における両性の意義や、生命の尊厳など生命倫理上の多くの問題を孕んでいます。わが国では人の場合は、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」で禁止されています。一方動物では、平成9年に決定したライフサイエンスに関する研究開発基本方針により、「動物クローン個体の作製は、畜産、科学研究、希少種の保護等において、大きな意義を有する一方で人間の倫理の問題等に直接触れるものでないことから、情報公開を進めつつ適宜推進する。」という基本方針のもと、家畜での実用化研究が行われています。

では今回紹介するクローン犬の状況を説明しましょう。日本では全く経験がない分野であるものの、お隣の韓国ではすでにビジネスとして実施しているのです。北海道大学に留学経験のある元ソウル大学学長であった黄禹錫(ファン・ウソク)氏が率いるスアム生命工学研究院が舞台となっています。工学院では2006年からクローン技術で犬を複製し、2008年には本格的にビジネスとして運用し、価格は10万ドル(約1,100万円)と言われています。死んだ犬の複製の依頼は世界各国から来ているようです。具体的には、複製したい犬の皮膚などの組織を依頼者に送ってもらい、そこから体細胞を取り出します。それを培養し、細胞の核を取り出します。次に核を取り除いた代理母犬の卵子と融合させて子宮に戻して着床させます。その後、代理母犬の子宮で妊娠を継続して、うまく進むと胚を移植して約60日後に出産にいたることになります。このようにしてクローン犬を得るのですが、技術的な問題点も指摘されています。それは効率が悪いことであり、代理母犬に無用な苦痛を与えることです。

以上のように体細胞クローン技術は効率性の問題はありますが、ほぼ確立された技術になってきたことは間違いありません。それをビジネスに利用することも当然考えることができます。ただ、あまりに高額であり、科学が一部の金持ちのために利用されることや、1匹のクローン犬の確保に多くの犬の犠牲を必要とすることに抵抗を感じます。科学技術は万民のために利用されるべきものと考えます。日本ではすぐにクローン犬のビジネスができる状況にはないと思いますが、犬は我われが生き抜くために必要な伴侶動物であることを考えれば、家畜が良くて犬がダメだという理屈にならないように思います。今後、先の研究開発基本方針に伴侶動物が含まれるかどうかについて、推移を見守りたいと思います。

なお、日本では飼育していた犬や猫の写真や立体計測を元に特殊造形技術を使ってレプリカ・フィギア(クローンワンコ)を作成するビジネスがあるとの報道がありました(2018/1/19,AFP)。また、人工頭脳を搭載したエンタテイメントロボット犬が販売されています。さて、これらがクローン犬の代替になるのでしょうか?

科学技術庁:クローンって何?
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/klon98/index.htm