ヒトのClostridioides (Clostridium) difficile感染症と動物との関連

掲載日:2018.11.19

Clostridioides difficile(CD)は偏性嫌気性のグラム陽性桿菌です。最近、分類学的研究の結果、Clostridium difficileから属名が変更になったものです。CDはヒトの抗菌薬投与後に発症する抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎の原因菌の一つとされています。これらClostridioides difficile感染症(CDI)は院内感染症の中で頻度が高い疾患で医療上の重要性が増しています。CDC(米国疾病予防管理センター)は、1年間でCDIに25万人が罹患し、14,000人が死亡するとして、最も警戒が必要な細菌感染症(Urgent threat)に指定しています。CDIは病院や老人介護施設等において下痢症を引き起こす主要な医療関連感染症であることに加えて、最近では市中でも感染を引き起こすことが示唆されています。市中感染の原因としては、動物や食品の介在が考えられるものの解析が十分になされていないのが現状です。

CDの産生する毒素としては、エンテロトキシン活性を示すトキシンA(TcdA)と細胞毒性活性を示すトキシンB(TcdB)、さらにアクチン特異的ADPリボシル化酵素であるバイナリートキシン(CDTA、CDTB)が知られており、CDの病原性との関連が指摘されています。また、分離株の疫学的な関連性を調べるための遺伝子型として、リボゾームRNAをコードする遺伝子を含む断片を検出してパターンを調べるリボタイプが汎用されています。海外では、ヒトと動物で共通のリボタイプを示す市中感染が増加していることが報告されています。しかし、日本におけるCDのヒトと動物の関連性を明らかにする研究は行われてきませんでした。そこで、酪農学園大学獣医学群食品衛生学ユニットの臼井優准教授を中心に精力的な疫学調査を行ってきましたので、今回はその概要を紹介したいと思います。

まず、豚におけるCDの分布状況を調べたところ、成豚からの分離率は0.8%と低かったものの1)、子豚からの分離率は57.5%と極めて高いものでした2)。子豚由来株の26%は全ての毒素遺伝子を保有し、35%はいずれかの毒素遺伝子を保有していました。日本のヒト臨床分離株と同一のリボタイプは認められませんでしたが、海外でヒトと動物で共通の078が本邦でも認められました。このことは、豚を介して日本へ侵入していることが示唆されます。また、牛も豚と同様に成牛から分離されなかったものの、子牛から17%に分離されました。子牛分離株の69%は全ての毒素遺伝子を保有し、31%がいずれかの毒素遺伝子を保有しました。

次に、家畜からヒトへの伝播経路を考えた場合、一般に家畜の糞便は堆肥を経由して環境に散布することが考えられます。そこでCDの分離率が高かった豚の完熟堆肥14検体を調べたところ5検体(36%)からCDが分離されました3)。堆肥は70℃程度に発熱しますが、CDが芽胞形成菌であるために生残したものと考えられました。このCD芽胞が堆肥を介して環境にばら撒かれることから生で食べることの多い野菜の汚染が気になるところです。そこでスーパーマーケットで購入した野菜242検体を用いて調べたところ、里芋、玉葱、牛蒡の8検体(3%)からCDが分離されました。いずれも土が付着した野菜でした。分離株の性状を調べたところ、子牛由来株とリボタイプ及び毒素遺伝子の保有状況が一致しました。また、CDI患者から分離報告のある014が含まれていました。さらに市販食肉286検体を調べたところ、鶏挽肉と鶏レバーの7検体(2.4%)からCDが分離されましたが、現時点で豚肉と牛肉からは分離されておりません。さらに鶏の糞便について調査するとともに、食肉の例数を増やして検討する必要があると考えています。

話は変わりますが、代表的な伴侶動物であるイヌは多くが室内で飼育されており、ヒトと最も近い距離で生活する動物になります。そこでイヌにおけるCDの保菌状況を調べたところ、204検体中62検体(30.4%)からCDが分離され、豚や牛と異なり年齢と分離率に関連性が見られませんでした4)。分離されたCDの47%はtcdAtcdB遺伝子が検出され、バイナリートキシン陽性株は認められませんでした。また、汎用される遺伝子型別法であるPFGE型で同一な株について全ゲノム解析を実施したところ、イヌ由来株とヒト由来株の間で近縁な株が認められ、イヌとヒト間での伝播が示唆されました。

以上のことから、まだまだ調査が十分とはいえませんが、理由は不明ながら若齢の豚と牛の糞便からCDが分離され、豚糞便に由来する堆肥でCDが生残し、土が付着した野菜や鶏肉からもCDが分離されることが分かりました。また分離株の中には病原性と関連する毒素遺伝子が検出され、ヒトから分離される遺伝子型のCDも含まれていました。さらに我々と生活空間を共有するイヌからも高頻度にCDが分離されました。したがって、CDは食用動物から食品を介して、あるいはペットから直接的にヒトへ伝播する可能性のあることが分かりました。今後はヒトがCDを食品として経口摂取することによる影響を明らかにするとともに、病原性発現における毒素の役割についてもさらに検討し、CDIにおける動物の関わりを明らかにする必要があると考えています。いずれにしても、ヒトの院内感染で重要なCDが動物で高頻度に保菌していることから、獣医領域でも注目すべき細菌であることは間違いありません。

 

  • Asai T, Usui M, Hiki M, Kawanishi M, Nagai H, Sasaki Y. Clostridium difficile Isolated from the Fecal Contents of Swine in Japan. J Vet Med Sci. 2013; 75, 539-541.
  • Usui M, Nanbu Y, Oka K, Takahashi M, Inamatsu T, Asai T, Kamiya S, Tamura Y. Genetic relatedness between Japanese and European isolates of Clostridium difficile originating from piglets and their risk associated with human health. Microbiol. 2014. 5. 513.
  • Usui M, Kawakura M, Yoshizawa N, San LL, Nakajima C, Suzuki Y, Tamura Y. Survival and prevalence of Clostridium difficile in manure compost derived from pigs. Anaerobe. 2017. 43. 15-20.
  •  Usui M, Suzuki K,  Oka K, Miyamoto K, Takahashi M, Inamatsu T, Kamiya S, Tamura Y. Distribution and characterization of  Clostridium difficile isolated from dogs in Japan. Anaerobe. 2016. 37. 58-61.