子犬から治療困難な食中毒菌がヒトに感染

掲載日:2018.11.12

特徴的なS字状を示す細菌のCampylobacter jejuni(Cj)はカンピロバクター食中毒の主な起因菌として知られています。Cjは主に鶏や牛の腸管に生息し、食肉処理過程で食肉を汚染して加熱不十分で食べるとヒトに食中毒を起こします。非常に少ない菌数(数百個)でヒトに感染し、下痢(水様便、時に血便)、腹痛、発熱などの胃腸炎を起こすことが特徴とされています。通常は治療を必要としませんが、重症例ではマクロライド系抗生物質やフルオロキノロン系抗菌薬による薬物治療がまれに行われることがあります。現在、カンピロバクター食中毒は、細菌性食中毒で最も事件数が多く年間約300例であり、患者数も2000名を超えています。この内、90%以上がCjを原因としています。また、食中毒発症後に筋肉が麻痺するギランバレー症候群を併発することでも重要視されています。

Cjが主に分離されるのは鶏肉の表面であり、市販鶏肉から高率(50%以上)に検出されます。Suzukiら(2007)1)は、2002年以降に雑誌に掲載された論文を収集し解析したところ、国産鶏肉の胸肉、モモ肉、肝臓、心臓、砂肝から30~60%検出されたことを報告しています。このように食肉には、Cjが高頻度で汚染しているのです。

一方、Cjは食用動物ばかりでなく、イヌやネコの糞便からも検出されることが知られています。Maruyamaらは、合計386頭のイヌと122頭のネコからCjの分離を試みたところ、12頭のイヌ(3.1%)と1頭のネコ(0.8%)から検出されたことを報告しています。Cj陽性イヌの13.5%が1歳以下の若い子犬でした。また、青木らはイヌの糞便から12.7%(9/71)と高率にCjが分離され、小児下痢患者からの分離株と遺伝子型が一致したことを報告しました2)。つまり、ヒトとイヌ間での伝播を示唆しています。イヌやネコもヒトと同様にCjの感染により、下痢、嘔吐、食欲不振、脱水を起すカンピロバクター腸炎を起こすことがあります。

今般、アメリカでブリーダーや小売業者の子犬が感染源の多剤耐性Cjのヒトへの感染事例が報告されました3)。分離されたCjはカンピロバクター食中毒の治療に使用される抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌でした。わが国の家畜から分離されるCjは基本的に医師が治療に使用する第一選択薬であるマクロライド系抗生物質に感受性であり、フルオロキノロン系抗菌薬に対しても30%が耐性である程度です。したがって、高齢者や幼児が重症のカンピロバクター食中毒に罹患しても治療薬がない状況ではありません。しかし、イヌは室内で飼育されることが多くヒトとの距離が非常に近いことから、イヌの糞便を介して今回報告された多剤耐性Cjがヒトに感染した場合、重症例では治療が困難になることが考えられます。

今回多剤耐性Cjが分離された子犬には抗菌薬の治療歴があることを考えれば、イヌの治療において抗菌薬は慎重に使用すべきものと考えられます。また、イヌがCjに感染した経路として生肉の喫食が考えられます。先にも述べたように食肉の表面にはCjのみならずさまざまな耐性菌に汚染している可能性があり注意する必要があります。生肉には今回述べたように微生物のリスクがあるとともに、栄養バランスが偏っており、イヌに与えることの是非が議論されています。近年、イヌやネコのエサとして普及しているペットフードは総合栄養食であり、生肉を与えなくとも十分に健康を維持できるものと思われます。また、乾燥した製品であることから細菌の繁殖は抑えられており衛生面でも問題ありません。したがって、耐性菌を保菌するリスクを下げる為にも生肉をイヌへ与えることは好ましくないと考えます。

  • Suzuki H and Yamamoto S., Campylobacter contamination in retail poultry meats and by-products in Japan: A literature survey. Food Control 20:531-537, 2007.
  • 青木紀子,吉田紀美,田中博,大瀬戸光明,井上博雄,中野省三,小児げりしょう患者と動物からのカンピロバクター属菌の分離状況とその疫学的解析 平成18年度愛媛衛環研年報 9:1-5, 2006.
  • Montgomery MP, et al., Multidrug-resistant Campylobacter jejuni outbreak linked to puppy Exposure-United States, 2016-2018. MMWR 67(37):1032-1035, 2018.https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/mm6737a3.htm