家畜保健衛生所を知っていますか?

掲載日:2018.10.29

獣医師の職域は広く、牛や馬、さらにはイヌやネコのお医者さんばかりでなく、公務員や企業の獣医師として幅広く活躍しています。酪農学園大学に入学する多くの獣医学類の学生は、志望動機の多くが動物のお医者さん、つまり臨床獣医師になることのようです。しかし殆どの学生は、臨床医師になる医学部と異なり、学生時代に獣医師の広範囲な職域を知り自分の将来を考えることに成ります。その結果、学年が進むにしたがって、自分の興味や適性を判断して、獣医師が求められているさまざまな職域に進んでいます。本学では職域の一つである公務員獣医師になる学生が毎年卒業生の15~20%程度います。公務員獣医師の分野も、大きく分けて家畜衛生と公衆衛生に分かれます。今回のテーマは家畜衛生分野で重要な職場である家畜保健衛生所(家保)の話しです。

家保は公衆衛生分野でいう保健所に相当する機関で、全都道府県に168カ所設置されています(独立した病性鑑定施設を含む)。各地域に2か所から北海道のように15カ所もある場合もあります。その中に主に家畜伝染病の精密診断を担当する病性鑑定施設をもつ家保も存在します。家保に勤務する獣医師数は約2000名ですが、近年、獣医師不足が指摘されています。これは獣医学生の絶対数が不足しているのではなく、職域に偏在があるためと考えています。家保の主な業務は、以下の5つに集約されます。

 

  • 家畜伝染病の発生予防・蔓延防止
  • 不明疾病の診断や発生原因の究明
  • 家畜衛生に関する思想の普及や向上
  • 家畜伝染病防疫に関する危機管理体制の整備
  • 動物用医薬品の適正使用や畜産農家の生産衛生指導等

 

この内、家保の最も特徴的な業務が、「家畜伝染病の発生予防・蔓延防止」になります。これは家畜伝染病予防法に基づき、伝染病の診断や定期検査を実施することです。また、伝染病が発生した場合は、蔓延を防止することに全精力を傾けることになります。最近、伝染病の発生時の家保の活躍は目を見張るものがあります。例えば、本年1月12日に香川県で家きんの高病原性鳥インフルエンザ(H5N6亜型)が検出され、家伝法に基づいて迅速な農場飼育鶏の殺処分、発生地域の移動制限等を実施しました。その結果、発生農場のみに限定され、周辺にある農場での清浄性確認検査で全て陰性であることが確認されました。また、9月9日に岐阜県の養豚場において26年ぶりとなる豚コレラの発生が確認されました。豚コレラは豚やイノシシが感染する病気であり、強い伝染力と高い致死性が特徴です。特に本病に有効であることが知られている豚コレラワクチンは1943年から事実上禁止となり、2015年に日本は国際的に豚コレラ清浄国に認定されています。したがって、わが国の豚は本病に対して無防備な状態であるにもかかわらず、近隣で死亡や捕獲されたイノシシで陽性個体が見つかっているものの、他の農場での発生は認められていません。このような完璧な防疫体制が維持されているのも家保に勤務する獣医師の能力と使命感の高さによるものと考えています。

以上のように国家防疫上、重要な仕事であるにも関わらず全国的に多くの欠員を抱えていることに対して、大学に所属する者として申し訳なく思っている次第です。できる限り仕事の重要性ややりがいを獣医学生に教示することにより、できるだけ早期に欠員の解消に協力したいと考えています。なお、家保自身も日常業務から得られたテーマを元に学位を取得することを推奨しており、より魅力ある職場の確立を目指しています。