消えたミツバチの謎と予防の原則

掲載日:2018.10.15

ハチミツは人類が使用した最初の甘味料といわれており、ハチミツと人類の関わりは非常に古いものです。糖分以外にもビタミン、ミネラル、アミノ酸、有機酸、酵素、色素などの微量成分も含まれており、正に代表的な健康食品といえるものです。食品以外でも魚の臭みを減らしたり、肉に使用することで加熱による収縮・硬化を抑えるなど調味料としての用途もあります。このミツバチの基となる花の蜜は、雌のミツバチによって採集されます。したがって、良質のバチミツを得るためには健康なミツバチが必要不可欠となるわけです。ところが最近、ミツバチが原因不明に大量に失踪する現象(蜂群崩壊症候群;CCD)が日本を含む世界各国で発生し、大きな社会問題となっています。今回は消えたミツバチの謎に迫ってみたいと思います。

2006年秋から現在にかけてセイヨウミツバチが一夜にして大量に失踪する現象が米国各地で発生し、その数は米国で飼われているミツバチの約4分の1になったといわれています。ヨーロッパでも、スイスドイツベルギーフランスオランダポーランドギリシアイタリアポルトガルスペインにおいて同様の現象が報告されています。他にインドやブラジルが報告され、そして日本でも類似症例が報告されています。いずれも原因は不明とされています。ただ、報告されたすべての例がCCDであると断定するには不確かなようです。その理由はそれぞれの症例に関する科学的な検証が不十分であるためCCDと決定できないためのようです。また、同一症例か不明ですが、CCDに似た大量失踪事件はすでに1896年に報告されているようで、最近発生したのではないとの意見もあるようです。

CCDの明確な原因については不明であり、さまざまな説が提案されています。感染症説、栄養失調説、農薬・殺虫剤説、電磁波説、遺伝子組換え作物説、ストレス説などが唱えられています。この他にも、飢餓やダニの寄生も考えられているようです。単独の原因とすると世界的な発生を説明することは困難でしょうし、そもそも各国の発生が同じものかが分からないのでは、なかなか原因究明に至らないようにも感じます。その中にあって我われとも関連の深い農薬・殺虫剤説に関してさらに説明したいと思います。もっとも注目されている農薬はネオニコチノイド系殺虫剤になり、農薬成分としてイミダクロプリド、アセタミプリド、ジノテラフランがあり、日本で開発されたクロチアジン、ニテンピラムなどがあります。これまで使用されてきた有機リン系殺虫剤に比べ、人体への安全性が高く、また植物体への浸透移行性があり残効が長い利点があり、殺虫剤の散布回数を減らせるため、現在では世界各国において最も主流の殺虫剤となっています。作用機序としては、神経伝達性アセチルコリンの受容体に結合し神経を興奮し続けることで昆虫を死に至らしめます。ネオニコチノイド系殺虫剤は農薬のほか、我われにも馴染みの深いイヌやネコの外部寄生虫駆除に使用されています。具体的にはノミ成虫の駆除に使われています。動物の皮膚に滴下する方法(ポアオン剤)で投与するため、動物にとっても、飼い主にとっても有用性の高い製品となっています。

各国の規制状況ですが、欧米では被害拡大を防止するための原因究明に精力的に取り組む一方、「予防の原則」による使用規制を強化しています。日本は原則的に科学の原則を採用しており、ネオニコチノイド系殺虫剤に科学的に問題があるとの認識に至っておらず、規制されていない状況です。EUの規制に利用した「予防の原則」は、科学的に不明確な状況下で、重大であるかも知れないリスクに対して、科学的探求の結果を待たずして適用されるリスク管理の方法と定義されます。つまり、科学的に問題がなくても禁止措置をとれるということです。生産性向上を目的に使用される抗菌性飼料添加物ですが、EUで使用禁止措置を取ることになったのも「予防の原則」を適応したためといわれています。ヒトの健康被害を未然に予防するための根拠として利用される意義は十分にあると思われますが、あくまで暫定措置であり、科学的な視点での研究は継続されるべきであり継続してリスク評価を実施すべきと思われます。あまりに「予防の原則」を利用した行政対応の決定が行われた場合、科学的な技術や研究が衰退するとの懸念があり、その適応には十分なリスクコミニュケーションを経ることを必要とします。いずれにしてもミツバチの失踪原因の究明が求められます。