夢のガン治療薬の開発者が2018年ノーベル賞を受賞

掲載日:2018.10.09

悪性腫瘍(ガン)は今なおヒトの死因の第一位であり、1年間に全世界で800万人が亡くなるなどの人類の健康を脅かす最大の脅威といえます。その治療薬の開発が多くの製薬企業で鋭意進められ、さまざまな医薬品が実際の臨床現場で応用されています。ただ、今もって決定打がなく、より有効な治療法が求められています。最近、外科的治療法、放射線治療法、抗ガン剤治療法に続く第4の治療法として免疫学的な治療が脚光を浴びています。その代表的な製剤が免疫チェックポイント阻害剤になります。2017年2月に100mg一ビンの薬価が73万円から半額になったことでも話題となりました。その新しいタイプの治療薬の開発に深く関わり、ガン治療に革命をもたらした京都大学特別教授である本庶佑先生に、2018年度ノーベル医学生理学賞が授与されることが決まりました。日本からの授賞は2年ぶりで26人目になります。様々な分野での国際的地位が低下している日本としては実に嬉しいニュースになりました。今回は本庶先生の業績を紹介するとともに、この夢のガン治療薬について紹介したいと思います。また、この薬のイヌやウシにおける応用に関しても紹介したいと思います。

私たちの体の中でガン細胞が絶えず生み出されていますが、通常は免疫細胞(活性化T細胞)により細胞死を誘導して排除されています。しかし、高齢や免疫不全になるなどでガン細胞の排除がうまくできずガンになるのです。この活性化T細胞の表面に発現する分子であるPD-1(Programmed cell death 1)を発見したのが本庶先生の研究業績になります(図参照)。PD-1に結合するタンパク質のリガンドであるPD-L1およびPD-L2をガン細胞が発現し、PD-1と結合することによりT細胞の活性を抑制してガン細胞を活性化させてしまいます。このPD-1とPD-L1あるいはPD-L2の結合を阻害できればT細胞がふたたび活性化してガン細胞を攻撃することになるのです。そこで開発されたのがPD-1に対する抗体(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)でニボルマブと呼ばれています。ニボルバムをガン患者に投与するとT細胞のPD-1と結合して免疫の働きにブレーキがかからなくなりガン細胞を攻撃するのです。ガン免疫療法は、薬が直接ガン細胞を攻撃するのではなく、もともと体内に備わっている免疫の力を利用して、ガン細胞の攻撃力を高めるのです。現在、効能効果としては、「悪性黒色腫、切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌、根治切除不能又は転移性の腎細胞癌、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫、再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌、がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫」と様々なガンに対して効果があることが知られています。今後もさまざまなガンに対する効能が追加されるものと期待されます。なお、その有効性に隠れていますが、医薬品ですので多くの副作用も報告されています。例えば間質性肺疾患、重症筋無力症・心筋炎・筋炎・横紋筋融解症、大腸炎・重度の下痢、1型糖尿病、免疫性血小板減少性紫斑病、甲状腺機能障害、副腎障害、腎障害、神経障害、重度の皮膚障害、静脈血栓栓塞症などが知られています。どうしてもガンの治療薬となると有効性のみに目がいってしまいがちですが、身体全体に張り巡らされた免疫ネットワークの一部を遮断することに付随する新たな副作用にも細心の注意を払うことが求められます。ガンの免疫学的な治療には、担当する医師の熟練した技術と知識が求められる領域でもあるのです。

一方、動物分野でもイヌのガン治療に有効な免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体)の開発が進行中です。開発者は北海道大学大学院獣医学研究院感染症学教室の今内覚准教授です。先生はイヌの難治性の腫瘍においても PD-L1 が頻繁に発現していることを報告してきました。そこで、イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてラット -イヌキメラ抗 PD-L1 抗体を開発し、難治性の悪性腫瘍に罹ったイヌに対する臨床応用研究を行った結果、悪性黒色腫と未分化肉腫に罹ったイヌの一部で、明らかな腫瘍の退縮効果が確認されました(図参照)。また、今内先生の研究グループは、ウシの体内で持続的に効果を示すPD-1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤(抗ウシPD-1キメラ抗体)も開発しています。開発した抗体を牛白血病ウイルスに感染したウシに投与すると、抗ウイルス免疫応答が増強され、血液中のウイルス量が減少することも確認しています。

今後は医薬品企業と共同して新たな免疫チェックポイント阻害剤として動物用医薬品の開発が鋭意進められることが期待されます。ただ問題は生産効率が不十分であることから、如何に生産コストを下げて、安価に動物に提供できるかにかかっています。

北海道大学Press release (2017/8/25)
https://lab-inf.vetmed.hokudai.ac.jp/content/files/Research/2017.8.25_jyu.pdf