究極の感染症治療‐マゴット療法とは?

掲載日:2018.09.18

皆さんは糖尿病について良くご存じだと思います。特に高齢者の皆さんにとっては、身近な病気であり、今や国民病ともいえるものです。医学的には、膵臓で分泌され血糖を調節するインスリンの作用不足により慢性の高血糖状態になる病気です。糖尿病には、1型と2型に分けられます。1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓の細胞が破壊されることにより起こり、若年者に多いといわれています。また、2型糖尿病は、運動不足や、過食、肥満、ストレスなどによりインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたし高血糖に成ることで、主に中高年から発症します。この高血糖状態が長期間にわたり続くと、神経障害や血流障害といった合併症が生じます。一方、高血糖状態は身体の抵抗力を低下させ、細菌感染を起こしやすくなることも知られています。糖尿病の患者さんの中には、足に外傷、靴ずれ、低温火傷などにより傷ができると潰瘍や壊疽が形成されることも指摘されています。壊疽になると細菌感染も生じやすくなり、抗菌薬での長期の治療対象となります。しかし、壊疽が広範囲にわたり治療が見込めないほどの重篤な場合には、命を守るために患部を切断せざるを得ないこともあります。ここでいう壊疽とは、壊死に陥った組織が、乾燥や感染などの二次的変化を受け、性状や外観が著しく変わったものを言います。病巣では腐敗菌が増殖し泥状できたなく悪臭を放ちますので、患者にとって耐えがたい闘病生活になるのです。

糖尿病による足の壊疽の治療で注目されているのが、本日の話題であるマゴット療法、つまりハエの幼虫であるウジ虫の食性を利用して壊死組織を除去するものです。ウジを利用した傷の治療法に関しては、古くから知られていたようです。また、戦時中に兵隊が戦場で傷を負い、土壌などから細菌感染した傷口にウジが湧いている場面は、戦争の悲惨さを訴える映画でしばしば見ることがあります。しかし、実際は傷口にウジが湧いた人ほど傷の治癒が早かったのです。本法は1928年より米国のジョンズ・ホプキンス大学の実証試験で有用であることがわかり治療法として確立されました。その後、北米を中心に積極的にマゴット療法が行われていたようです。ところが、1928年のペニシリンの発見を契機に多くの抗菌薬が開発され、外科治療の進歩と相まってマゴット療法は衰退していくことになりました。ご承知のように抗菌薬の多用と連用は耐性菌の蔓延を誘発しますし、糖尿病患者の急増により糖尿病性壊疽患者が増え再びマゴット療法が注目されるようになっているのです。アメリカでは医療用ウジが2004年にアメリカ医薬品局(FAD)によって医療用デバイスとして許可されたそうで、科学的な根拠の元にマゴット治療が実施されているのです。ただし、現在、日本では医療用ウジは許可されておらず、自由診療の範囲を超えていないようです。

では実際のマゴット治療の流れを紹介しましょう。使用するウジはヒロズキンバエに由来し、専門業者により無菌状態で繁殖させたものです。まず壊死巣を洗浄し、通気性のあるテープで周りを囲います。壊死巣1平方cmに対し約5~6匹のウジを置きます。ウジが呼吸し、活動しやすいように中を空洞にしてテープで閉じます。逃げないように隙間をテープで固定します。ウジを潰さないため、また浸出液吸収のために土台を作ります。これらの上から包帯でゆとりを持たせて巻き、3~4日後にウジをとりだし、これを繰り返すことに成ります。ウジは選択的に壊死組織のみをタンパク分解酵素を含む分泌液で溶かして食べるようです。また、同時にウジが分泌する抗菌物質などによって殺菌も行われるようです。この分泌液はアンモニア化合物や炭酸カルシウムなどの塩基性であり、耐性菌を含む病原菌を殺菌する力があります。

海外の使用経験からマゴット療法による重大な副作用は報告されていないようです。ただし、ウジによる直接的な刺激やpHの上昇で痛みを感じる場合があります。また、傷口からの出血も報告されているようです。これ以外でも発熱や、既存の感染や炎症の悪化、臭気も知られています。これらの副作用と考えられる症例では治療を中止することで回避できます。

以上、糖尿病で足の潰瘍が薬物治療で治らず、感染が急速に拡大し、やむなく足を切断する場合には、究極の感染症治療としてマゴット療法が選択肢と成り得るように思います。ウジを使った治療となると誰しもが顔を背けたくなりますが、自然の生物が持つ想像を超えた能力に期待する十分な価値のある治療法に思えてなりません。現時点で医療用ウジの医療機器としての許可がない状況で高額な自由診療でしか実施できない欠点があります。早期に科学的な知見を集積し、日本でも保険診療で実施できることが望ましいと考えます。