長野県で発生した新規ブルセラ属菌による感染症

掲載日:2018.08.20

先日、このコラムで動物病院に勤務する獣医師のBrucella canisによるブルセラ病について紹介しました。日本では家畜衛生分野に携わる獣医師の努力の結果、家畜伝染病予防法に指定されるブルセラ病はすでに清浄化されており、ヒトにおける発生も極めて稀な感染症です。今般、長野県で新規のブルセラ属菌による二つの感染事例が発生しました。ブルセラ病は世界的にも重要な人獣共通感染症であることから、今回の感染事例についても紹介したいと思います。

長野県の中信地方在住の40歳代女性と子供3人の計4名が新規ブルセラ属菌に感染していたことが7月25日付けの新聞に報道されました(信濃毎日新聞)。女性は1月下旬に高熱で近隣の医療機関を受診し、解熱薬で症状が改善したものの、2月下旬に再び高熱が出て、血液からブルセラ菌が分離されました。同様に発熱などの症状が出た女性の長男、次男、長女の血液検査でブルセラ菌に対する抗体が観察されました。分離菌の性状から、今年の5月に公表された佐久地方の60歳代男性から分離された新規ブルセラ菌1) による2例目の感染事例とされました。この男性は2型糖尿病で易感染状態であったようです。海外渡航暦がなく、輸入食品の喫食もなかったようです。2017年4月に間欠熱が1週間ほど観察され、その後、腎機能の急速な悪化が認められ、急性腎障害による尿毒症で入院しました。入院期間中に血液からブルセラ菌を分離し、ドキシサイクリンなどの抗菌薬による治療を行いました。腎生検の結果から、ブルセラ菌感染に合併した腎炎と診断されたものの、治療後も腎機能は回復しなかったようです。抗体検査ではB.abortus抗体が160倍で陽性で、B.canis抗体は20倍で陰性でした。家畜に由来するB.abortusB.melitensisB.suisは共通抗原を保有するため、これらの家畜由来ブルセラ菌による感染が示唆されました。また、菌種鑑別用のPCR検査でB.suisのパターンが認められ、B.suis感染が疑われました。しかし、B.suisによるブルセラ病はすでに清浄化されており、渡航暦も無いことからさらなる検査が求められました。そこで、分離株について16S rRNA遺伝子配列および9座連結配列(MLSA)による系統樹解析を実施したところ、B.suis biover 5と近縁であるものの、新規のブルセラ属菌であることが明らかにされました(図参照)。これまでB.suisのbiover 1、2、3は豚に関連し、biover 4はトナカイと、biover 5はネズミと関連することが知られています。長野県の2つの感染事例では共通にネコを飼育していたようです。ネコからのブルセラ病の感染はあまり知られていませんが、文献をみると牛農場で飼育していた子宮蓄膿症のネコの排出液からB.abrtus biover 1が分離されています2)。また、飼育しているネコとの接触で子供を含む6人がブルセラ病に罹り、罹患者の一人の血液およびネコの臓器からB.suis biover 5が分離されました3)。したがって、今回の感染事例におけるネコの役割はまだ不明な点が多いのですが、ブルセラ病とネコとの関連について今後明らかにされると思われます。

なお、現在、細菌分類学ではDNA-DNA相同性試験結果より遺伝学的類似性が高いことから1菌種(B.melitensis)にまとめられ、これまでの菌種が生物型(biover)とされています。ただし、医学、獣医学では混乱を避けるため生物型を従来どおりに菌種と取り扱うことが認められており、今回は従来の表記としました。

 

https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/05/459d02f01.pdf

1) 新規ブルセラ属菌によるブルセラ症と診断された日本人男性の一例

https://www.niid.go.jp/niid/ja/brucella-m/brucella-iasrd/8033-459d02.html

2) Warenth G et al. Isolation of Brucella abortus from a Dog and a Cat confirms their Biological Role in Re-emergence and Dissemination of Bovine Brucellosis on Dairy Farms. Transbound Emerg Dis, 2017 Oct;64(5):e27-e30. doi: 10.1111/tbed.12535. Epub 2016 Jun 15.

3) Repina LP, Nikulina AI, Kosilov IA: A case of human infection with brucellosis from a cat. Zh Mikrobiol Epidemiol Immunobiol 1993 Jul-Aug;(4):66-8.