抗菌薬はウイルスに無効です!

掲載日:2018.08.20

8月17日の読売新聞に、一般の人の3人に1人が、風邪に抗菌薬を処方するのは良い医師と思っているとの意識調査成績を報道しています。また、こうした患者の意向に沿って抗菌薬を処方する医師が6割にも上る別の調査成績(図参考)も述べています。この原因の大きいところが一般の方々の抗菌薬に関する認識に誤解があることのように思われます。そこで今回は抗菌薬とは何かというテーマで解説してみたいと思います。

ここでいう抗菌薬とは抗生物質と合成抗菌薬を合わせて呼称しています。では抗生物質とは何でしょうか?すでにこのコラムでも紹介したように、最初の抗生物質はFlemingにより発見されたペニシリンになります。抗生物質の定義は1956年にWaksmanによって「微生物が産生する化学物質で、他の微生物の発育を抑制または破壊するもの」とされています。ここでいう微生物ですが、抗生物質を産生するのは主に放線菌という細菌で土壌に多く生息しています。また抗生物質により作用を受ける微生物はウイルスではなく細菌です。いろいろな抗生物質産生菌により産生する抗生物質は、作用を及ぼす細菌やその性質も異なることからそれぞれが固有の名称で呼ばれています。ストレプトマイシンやテトラサイクリン、エリスロマイシンなどです。この内、多くの抗生物質は日本で発見されたものです。この背景として日本では古くから味噌や醤油という微生物による発酵食品が盛んに製造されていたことと関連があると考えられています。一方、合成抗菌薬とは人間が作り出した抗菌活性を示す化学物質であり、合成抗菌薬産生菌は存在しません。具体的にはサルファ薬やトリメトプリムなどがあります。なお、抗生物質といっても現在は化学合成で製造されるものが多いのですが、発見の経緯が微生物の産生する化学物質であれば抗生物質に分類されています。

次に抗菌薬は細菌に対してどのような作用を及ぼすのかを説明したいと思います(図参照)。まず、細菌の一番外側の構造である細胞壁に作用して合成を阻害することです。細胞壁を作れないと細菌は死滅します。これがペニシリンの作用機構です。また、細菌のタンパク合成を阻害することで増殖を抑制する抗生物質もあります。テトラサイクリンやエリスロマイシンはこの作用です。細菌の増殖に必要なDNAやRNAなどの核酸に作用して死滅させるものもあります。このように抗菌薬はあくまで細菌に対して作用する化学物質であることから、ウイルスを死滅させることはできません。

皆さんが毎年罹る風邪ですが、ほとんどはウイルスによるものとされています。インフルエンザもウイルスによる感染症です。したがって、風邪に対する治療に抗菌薬は効果がないことはすでにご理解頂けたと思います。しかし、意識調査をすると抗菌薬は風邪やインフルエンザに効果がないと知っているかとの問いに、43.0%の方が知らなかったと答えているのです(図参照)。このような方々が風邪に罹った時に医師に抗菌薬を要求すると考えられます。確かに風邪に続発する肺炎に対して抗菌薬は入院リスクを減少させる効果があります。しかし、風邪で肺炎になるケースは極めて稀です。ある調査によれば肺炎1人を減らすのに12,255人に抗菌薬を投与する必要があると報告されています。つまり、12,254人は無駄だったことを示します。耐性菌を増加させる要因として上げられているのは、抗菌薬の過剰使用と誤用と言われています。無駄な抗菌薬はわれわれの体の中で耐性菌を増やす原因にもなるのです。

動物に使用される抗菌薬の内、医療上重要だとされているのは第3世代セファロスポリン薬とフルオロキノロン薬です。ヒトの感染症で特に重い症例に使用される抗菌薬です。動物でこのような抗菌薬が過剰使用あるいは誤用された場合、動物で増えた耐性菌が糞便を介してヒトに伝播すると治療が困難になることを意味します。

以上、抗菌薬について説明してきました。抗菌薬は種類も多く対象とする感染症により異なり、症状によっても処方される種類が違います。したがって、極めて専門性の高い医薬品であることから素人が勝手に使用することは極めて危険ということです。現在、医師と獣医師に対して抗菌薬の適正使用を強化することを政府が進めています。皆さんも抗菌薬を十分に理解して適正使用を実行して頂きたいと思います。2015年にWHOは、「抗菌薬は残さない・あげない・もらわない」との標語を一般の方々に示しました。つまり、皆さんは抗菌薬を適正使用するために、①安易に抗菌薬求めない、②抗菌薬を処方されたら飲みきる、③抗菌薬を安易にもらわない、④素人判断で抗菌薬をあげない、を将来の子供たちのために真剣に守っていただきたいと切に願う次第です。