静岡でも多剤耐性アシネトバクターによる院内感染が発生

掲載日:2018.08.20

鹿児島における治療が極めて限定される多剤耐性アシネトバクター(Multi-drug resistant Acinetobacter;MDRA)による院内感染事例を先に紹介し、多くの方々にコラムを読んでいただきました。わが国では稀と考えられていたMDRAですが、また8月10日に静岡市立静岡病院で入院患者4名が感染し、このうち2名の方が亡くなられたことが報道されました(静岡新聞)。今回は静岡の事例について紹介したいと思います。

病院による公表資料1)によると、本年5月3日肺炎、敗血症等にて台湾の病院に入院、治療をうけておられた男性(78)が、本年5月31日に帰国して入院し、入院初日の5月31日に提出した喀痰培養にて、感染症法で規定されたMDRAが6月5日同定検出されました。その後8月10日までに、最初の患者のほかに、同じ一般総合重症治療室に入院していた3名の患者にMDRA感染が発生したというものです。この3名の患者のうち、2名が発症され、残る1名は保菌状態であり、発症された2名のうちの1名と最初の患者の計2名が亡くなられました。最初の患者に関して台湾からの情報では、喀痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、血液 培養から肺炎球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出されていたというものでした。そこで、標準予防策で対応してところ、職員による医療処置やケアのプロセスにおいて、接触感染予防策が完璧ではなかったために院内感染が発生した可能性を公表資料で指摘しています。

なお、患者の死亡とMDRA感染との因果関係については、最初の患者はすでにMDRAによる肺炎を発症していたと考えられ、MDRA感染と診断され治療した結果、肺炎は軽快されMDRAも検出されなくなったようです。したがって、肺炎以外にも複数の疾患があったことから、MDRA感染と死亡との因果関係は明らかでないとされています。一方、もう一名の亡くなられた患者は、入院時点で他の疾患で重篤な状態であり、最終的にはMDRA感染による肺炎で亡くなったと考えられているようです。

今回検出されたMDRAに関する解析は現在実施されており、詳しいことは公表されていませんので今後に待たなければなりません。ただ、分離株がOXA-23-like β-ラクタマーゼが陽性であったことが公表されています。MDRAはカルバペネム系抗菌薬に耐性であり、他の系統の抗菌薬にも耐性を示します。カルバペネム耐性は、Amberの分類でクラスDに属するOXA-typeのβ-ラクタマーゼを産生するものが多いとされています。今回の分離株の菌種は公表されていませんが、多剤耐性株が多いとされるA. baumannii の染色体上には、多くの場合bla OXA-51-like遺伝子が存在しています。この遺伝子には、その発現に必要なプロモーターが無く、元来、OXA-51-like β-ラクタマーゼは産生されないが、この遺伝子の上流に、プロモーター活性を有する挿入遺伝子領域(ISAba1 )を獲得した株はOXA-51-like β-ラクタマーゼを産生するようになるようです2)。また、今回検出されたOXA-23 likeβ-ラクタマーゼの産生株は特にアジアに多いとされています。

MDRA感染症における有効な治療薬はコリスチンとされています。今のところ日本でコリスチン耐性MRDAの報告はないものの、アメリカを始め諸外国では報告されています。したがって、コリスチンのMDRAに対する抗菌力を維持する必要があります。硫酸コリスチンは家畜(特に豚)において治療用の動物用医薬品として多く使用されています(成長促進用の飼料添加物としての硫酸コリスチンは、7月1日から農家での使用が禁止されています)。ただし、第二選択薬として第一選択薬が無効な場合にのみ使用することになっています。医療におけるMDRA感染症の発生を契機に、環境における選択圧を下げるためにも獣医療における硫酸コリスチンの慎重使用の励行をお願いしたいものです。