多剤耐性アシネトバクターによる院内感染事例

掲載日:2018.08.06

8月3日に鹿児島大学病院において多剤耐性アシネトバクターの院内感染事例が明らかになりました(読売新聞)。鹿児島大学病院の公表用資料によると、2017年4月にICUに入院していた患者1名から、また同年10月から11月にかけて入院していた患者2名から多剤耐性アシネトバクターが検出されました。その後、2018年4月に2名のICUに入院された方からも検出され、この2名の方が亡くなられました。また、分離株はIMP-1型メタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子を保有していたというものです。

医療において多剤耐性アシネトバクターは有効な治療薬が極めて限定されることから、最も注目されている耐性菌です。その有効な治療薬が家畜でも馴染みのあるコリスチンであることから、今回は多剤耐性アシネトバクターについて紹介したいと思います。

アシネトバクター属細菌はグラム陰性の桿菌で、土壌など湿潤環境を好み、自然環境中に広く分布します。健康な人の皮膚にも存在することがあり、動物の排泄物からも分離されることがあります。院内感染菌として有名なAcinetobacter baumanniを始め30菌種以上が知られています。通常は無害ですが日和見感染を起こすことがあり、特に免疫力の低下した患者では、髄膜炎や菌血症および敗血症を起こし重篤な状態に陥る事があります。ここでいう多剤耐性アシネトバクターとは、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系抗菌薬に耐性を示すことを言います。多剤耐性アシネトバクター感染症が発症した場合には、宿主の易感染性とも相まって、高い死亡率を示すことが知られています。多剤耐性アシネトバクターに対して抗菌活性が強い薬剤としてコリスチンとチゲサイクリンが知られています。欧米で多剤耐性アシネトバクターが問題となり、近年は中国や韓国、東南アジア諸国でも流行が報告されるようになっていますが、日本では大学病院での検出例があるものの必ずしも多いものでありません。

今回の院内感染事例から分離された多剤耐性アシネトバクターが保有していたIMP-1型遺伝子は、カルバペネム系抗菌薬を分解するカルバペネマーゼ遺伝子の一種で、IMP-6型とともに日本で多いとされています。カルバペネマーゼはカルバペネム系抗菌薬のみならず、ペニシリンおよびセフェム系抗菌薬にも耐性を示すため、基本的にβ-ラクタム系抗菌薬のほとんどに耐性を示します。

では次に薬剤耐性アシネトバクター属菌の動物からの検出状況を見てみましょう。カルバペネム耐性のアシネトバクター属菌が牛から分離されたとの報告が海外からなされていますが、日本ではこれまで牛乳房炎からアシネトバクター属菌が分離されているものの耐性性状まで解析されていないようです。一方、伴侶動物からアシネトバクター属菌は日和見感染菌や二次感染菌として分離されています。原田は犬と猫由来アシネトバクター属菌計59株(A. baumannii 28株、A. pittii 11株、A. radioresistens 10株A. ursingii 10株A. gergoviae 1株)を対象とした薬剤感受性試験の結果、調査した全てのβ-ラクタム系剤(ピペラシリン、セフタジジム、セフォタキシム、メロペネム)に耐性を示す株は認めませんでした。また、他の系統の抗菌剤(シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、ST合剤)に対する耐性率も20%未満と低率であることを報告しました。一方で、木村らは、犬猫由来A. lwoffii 27株を対象とした調査でピペラシリンやセフジニルに対する耐性率が約30%でありイミペネムに対する耐性率も11.1%であったと報告しており、菌種により耐性状況が異なる可能性があるようです。最近、膀胱炎の犬と結膜炎の猫からIMP-1遺伝子を保有するA.radioresistensが分離されたことが注目されています。β-ラクタム系抗菌薬に耐性を示したもののアミノグリコシド系に感受性であり、多剤耐性アシネトバクターではなかったようです。いずれにしても、今後は動物分野においても多剤耐性アシネトバクターに関心を持つべきであり、One Healthの視点からその動向を監視する必要があると考えます。

 

鹿児島大学病院:多剤耐性アシネトバクター検出事例に関する報告

https://com4.kufm.kagoshima-u.ac.jp/images/contents/news/hospital/2018/kouhyouyousiryou_20180803.pdf

原田 和記:コンパニオンアニマルにおける薬剤耐性菌の現状,化学療法の領域 33:60-66,2017.

木村 唯嶋田 恵理子宮本 忠鳩谷 晋吾:犬猫におけるアシネトバクター属菌の分離状況と薬剤感受性,日本獣医師会誌 68:59-63,2015.

Kimura Y, Miyamoto T, Aoki K, Ishi Y, Harada K, Watarai M, Hataya S:

Analysis of IMP-1 type metallo-β-lactamase-producing Acinetobacter

radioresistens isolated from  companion animals, J Infect Chem 23(9):655-657, 2017.