動物病院勤務獣医師がブルセラ病に感染

掲載日:2018.07.23

朝日新聞(3月9日付け)によると、千葉県の小動物病院に勤務する50代の男性獣医師がブルセラ病に感染したと報道しました。獣医師は昨年12月14日に発熱を訴えて医療機関を受診し、その後一旦は快方に向かいましたが、同下旬に両手のしびれや足のふらつきが出て、同27日から医療機関に入院しました。今年3月5日に血液検査の結果からブルセラ病と診断されたもので、長期入院を強いられたようです。感染経路は不明なのですが、小動物病院に勤務していたことや、ブルセラ菌(多分B.Canis)に対する抗体が存在したことから、犬から感染した可能性があるとのことでした。そこで今回は症状が典型的なものでないものの犬からB.Canisが感染したとの前提で、犬のブルセラ病に関する情報を提供したいと思います。

ブルセラ病は、Brucella melitensisが感染して起こる伝染病であり、牛、綿羊、山羊、豚などの家畜の他、犬やげっ歯類にも感染が起こり、さらには人にも感染する人獣共通感染症です。犬のブルセラ病の主な原因菌はB.melitensisの生物型である犬型(B.Canis)ですが、犬と人に感染するものとして牛型(B.Abortus)、山羊型(B.Melitensis)、豚型(B.Suis)が上げられます。今回の事例の原因菌が分離されていないことから、最終的にどのブルセラ菌かは分からない状況です。ただし、一般的に考えれば最も可能性が高いのはB.Canisであろうと想像されます。家畜のブルセラ病は家畜伝染病予防法により法定伝染病に指定され撲滅対策が取られています。しかし、犬のブルセラ病に関しては法的根拠がなく、予防措置や検査体制等も取られていないことから、発生状況も家畜ほど明確ではありません。一方、人では1999年4月から感染症法により届出義務が科せられ、現在までに今回の事例を入れて15名が報告されています。少なくとも6名の患者がB.Canisの感染であることが判明しています。したがって、人のブルセラ病を考える場合、犬との関連が重要となります。

感染源は動物の組織、乳汁、血液、尿、胎盤、膣排泄物、流産胎児といわれています。潜伏期間は通常2~8週で、発熱、脾種、リンパ節の腫脹、関節の腫脹と痛みがあり、進行の時期によって泌尿器・生殖器症状が現れます。犬の症状は、流産、不妊、精巣上体炎などの繁殖障害を主徴とします。ただし、ほとんどの場合が臨床症状を示さず不顕性感染といわれ、ブルセラ病対策を実施する上での問題となっています。この不顕性感染した犬個体が、健康状態が悪化したり、極度のストレスにより不定期に排菌し、人の感染源となります。犬ブルセラ病に対するわが国での疫学調査成績によれば、少なくとも数パーセントの割合でB.Canisを保菌している犬が存在すると思われます。したがって、犬の飼い主や動物病院の獣医師などのスタッフはブルセラ病の高リスク群であることを認識する必要があります。

もし犬がブルセラ病に罹患している可能性があれば、飼い主や病院スタッフへの感染防止のため完全隔離が基本となります。その間に抗体検査とPCR検査を実施し、PCR陰性まで隔離入院が必要となります。PCR陰転後も定期的に検査を実施することが推奨されています。犬用のワクチンは開発されておらず、抗菌薬による治療が主体となります。テトラサイクリン系やアミノグリコシド系抗菌薬で治療が可能とされていますが長期間を要し、一般に治療が困難な感染症です。

 

片岡 康:犬ブルセラ病の現状と清浄化に向けての課題.日本獣医師会誌 63:740-744,2010.